ゼロから理解する「サステナビリティ」の3つの柱と重要性
2025/01/31

サステナビリティ(持続可能性)とは、限られた資源や社会の仕組みを維持しながら、現在と未来の世代がともに豊かに暮らせる社会を目指す考え方です。
もともと環境保護を中心とした考え方として生まれた言葉ですが、現在では社会や経済も含めた広い分野で、企業や個人が果たすべき責任として捉えられるようになりました。
サステナビリティは、以下の3つの柱で構成されています。
②社会(社会的持続性)
③経済(経済的持続性)
つまり、環境を守り、社会の公平性を保ち、経済を発展させるバランスを追求する考え方が「サステナビリティ」なのです。
本記事では、サステナビリティをゼロから理解するために、サステナビリティを構成する3つの柱や注目される背景、さらに、具体的な取り組み事例を通じて、なぜサステナビリティの考え方が現代社会において重要視されているのかを解説します。
目次
サステナビリティの認知度は85.1%
近年、環境問題への関心の高まりとともに「サステナビリティ」という言葉を耳にする機会が増えましたが、その具体的な意味や関連する取り組みについて、どれほどの人が理解しているのでしょうか。
下記は、リコマースサービス「ブランディア」とフリマアプリ「ラクマ」が共同で実施した、ファッションにおけるサステナビリティの認知度・関心度に関するインターネット調査の結果を示したグラフです。
◆サステナビリティの認知度
引用:サステナビリティの認知度85%、不用なファッションアイテムの処分は目的ごとにサービスを使用【ブランディア、ラクマ共同調査】(ネットショップ担当者フォーラム)
グラフを見ると、2022年の調査では「意味を知っている」「聞いたことがある」と回答した人が85.1%と、前年より増加しており、概念自体は浸透してきていると言えますが、一方で「聞いたことがあるが、意味は知らない」と回答している人が増加していることから、その具体的な内容まで理解している層は限られていることがわかります。
次に、海外におけるサステナビリティへの関心についても見てみましょう。
下記は、電通と電通総研が共同で実施した、6ヶ国(各国1,000人)を対象とした意識調査の結果を示すグラフです。
◆サステナビリティについて考える頻度についての6ヶ国比較(直近3年間)
海外諸国におけるサステナビリティの関心度に比べて、日本での関心度は非常に低いことがわかります。
また、下記は、PwC Japanグループによる4ヶ国を対象にした意識調査の結果です。
◆過去1年間、サステナブルな商品を購入したことがあるか
グラフが示す通り、サステナビリティに対する消費者の意識が高いアメリカ、イギリス、中国に比べて、日本の消費者はアクションまで至る傾向が低く、消費者の意識はいまだ低いと言わざるを得ません。
これらのデータから考えると、サステナビリティという言葉や概念自体は年々広く知られるようになっているものの、その具体的な内容や重要性について深く理解し、真剣に考えている人の割合は、まだ限定的であると言えます。
さらに、海外に視野を広げてみると、日本はサステナビリティに対する意識や行動の面で大きく遅れを取っている現状が浮き彫りになります。
海外では、サステナブルな商品の購入意欲や日常生活での実践行動が積極的に行われている一方で、日本では認知度が一定以上あるにもかかわらず、行動に移す割合が低いことがグラフから読み取れます。
このような状況を踏まえると、サステナビリティに対する一層の理解を促し、行動に結びつけるためには、社会全体で情報提供や普及活動を強化していく必要があります。
具体的には、日常生活やビジネスの中でサステナビリティがどのように関わるのかを分かりやすく伝えたり、個人が実践できる具体的な行動例を示すことが求められます。
そして、サステナビリティをより深く理解し、行動に結びつけるためには、その基本的な構造や考え方を押さえることが欠かせません。次項では、サステナビリティを支える重要な要素について解説してまいります。
サステナビリティにおける3つの柱
サステナビリティを理解するために、これを構成する3つの柱を知っておく必要があります。
◆サステナビリティにおける3つの柱
②社会(社会的持続性)
③経済(経済的持続性)
この3つの要素は相互に関連し合い、それぞれが調和することでサステナブル(持続可能)な社会が実現します。つまり、3つの柱のいずれも欠けることなく、すべてが満たされた状態で初めて「サステナビリティ」が形作られるのです。
①環境(環境的持続性)
サステナビリティの中核である「環境」は、地球温暖化や資源の枯渇、生物多様性の喪失などの課題に対処し、地球そのものの持続性を守ることを目的としています。
具体的には、温室効果ガス削減や再生可能エネルギーの利用、資源のリサイクルといった取り組みを通じて、環境への負荷を最小限に抑えることが求められます。
②社会(社会的持続性)
「社会」の柱は、人々が公平で安心して暮らせる持続可能な社会を実現することを目指します。
例えば、貧困の解消、ジェンダー平等、教育や医療の提供など、人々の生活に直接関わる基盤を整え、多様性を尊重しながら地域コミュニティを支える取り組みが重要です。
③経済(経済的持続性)
「経済」の柱は、持続可能な形での成長と発展を目指すことであり、短期的な利益にとどまらず、長期的な繁栄と安定を追求します。
環境や社会に配慮したビジネスモデルを導入し、環境、社会、ガバナンスを重視した企業、具体的には、環境保護や人権尊重、経営の透明性を重視する企業への投資が注目されています。
これにより、持続可能な経済の成長と循環型経済への移行が促進されます。
これら3つの柱は、それぞれが独立した存在ではなく相互に深く影響し合っています。これらをバランスよく追求することで、持続可能な未来の実現につながります。
次項では、サステナビリティが重要視されるようになった背景について詳しく解説します。
サステナビリティが重要視される5つの背景
近年、サステナビリティの取り組みが世界規模で推進されていますが、サステナビリティがこれほどまでに重要視される背景には、現代社会が抱える様々な課題の影響があります。それは、前項で解説した「環境」「社会的」「経済」における側面も含めた包括的なものです。
サステナビリティが重要視される背景として、以下の5つが考えられます。
背景②社会課題の複雑化とグローバル化
背景③短期的な利益追求の影響とESG投資の拡大
背景④消費者意識の変化
背景⑤SDGsの推進と国際的な取り組みの広がり
これらについて、詳しく解説してまいります。
背景①気候変動の進行による環境問題の深刻化
気候変動は、サステナビリティが重要視される背景の中でも最も大きな課題のひとつです。地球温暖化に伴う気温上昇や異常気象の頻発は、私たちの日常生活や経済活動に深刻な影響を及ぼしています。
例えば、以下のような現象が顕著になっています。
◆気候変動が引き起こす問題
・海面上昇と水害のリスク
・生物多様性の喪失
このような状況に対応するため、国際社会は「パリ協定」を採択し、気温上昇を産業革命以前の水準から2℃未満に抑えることを目標としています。また、多くの国や企業が「カーボンニュートラル」(温室効果ガス排出量を実質ゼロにする)を目指す取り組みを進めています。
しかし、これらの課題に対する行動は、まだ十分とは言えません。気候変動を食い止めるためには、再生可能エネルギーの普及や脱炭素技術の開発、資源の効率的利用が不可欠です。
また、個人レベルでもエネルギー消費の見直しや廃棄物の削減など、持続可能なライフスタイルへの転換が求められています。
このように、気候変動はすべての背景に影響を与える課題でもあり、この課題の解決は、環境だけでなく社会や経済の持続可能性を確保するためにも非常に重要です。
背景②社会課題の深刻化とグローバル化
サステナビリティが重要視される背景には、貧困や格差の拡大、労働環境の問題、人口増加による資源のひっ迫といった社会課題の深刻化があります。貧困層の増加や富裕層への資産集中が社会を不安定にし、経済成長にも悪影響を与えています。
また、グローバル化が進む中で、サプライチェーンにおける環境破壊や労働搾取が問題視されており、製造過程で環境や人権に配慮し、作り手に適切な報酬を支払うといった仕組みを導入することが求められています。
さらに、世界人口が80億人を超え、都市化が進む中で、食料や水、エネルギーの需要が急増していることから、限られた資源を効率的に活用する持続可能な供給システムの構築が不可欠となっています。
これらの社会的な課題を解決することは、サステナビリティの核心であり、持続可能な未来の実現のために避けて通れない課題となっています。
背景③短期的な利益追求の影響とESG投資の拡大
経済の持続可能性が求められる背景には、主に企業による「短期的な利益追求」が環境や社会に悪影響を与えていることが挙げられます。
利益優先のための過剰な資源の消費や、不公平な労働条件を伴う経済活動は、長期的には環境破壊や社会的不安定を引き起こし、結果として経済自体の持続性を損ないます。
こうした状況を改善するため、近年注目されているのが「ESG投資」です。ESGとは、「環境(Environmental)」「社会(Social)」「ガバナンス(Governance)」の頭文字を取った言葉で、これらの要素を考慮した企業やプロジェクトに資金を提供する投資手法を指します。
具体的には、環境負荷を低減する技術の導入、社会的責任を果たす経営方針、透明性の高いガバナンス(企業統治)を持つ企業が投資家から高く評価されています。
ESGについては、下記記事で詳しく解説しておりますので、あわせてご覧ください。
また、循環型経済(サーキュラーエコノミー)の推進も重要視されており、限られた資源を再利用し、廃棄物を最小限に抑える仕組みを作ることで、持続的な経済活動が実現されます。
背景④消費者意識の変化
サステナビリティが重要視されている背景には、消費者意識の変化が大きな影響を与えています。特に近年、環境や社会への影響を考慮した「エシカル消費」が台頭しており、消費者が購入する商品の背景に関心を持つようになっています。
◆エシカル消費対応商品の売上高推移(コープ)
これにより、企業は製品やサービスの透明性を確保し、サステナブルな取り組みをアピールする必要性に迫られています。
さらに、プラスチック削減やリサイクル素材の使用といった環境配慮型商品への需要が高まっており、「地球に優しい選択」をすることが消費者の新たな価値観となっています。
また、フェアトレード商品やカーボンニュートラルな製品を選ぶ消費行動も広がりつつあります。
◆フェアトレード認証製品の推計市場規模と国民一人当たりの年間購入額推移
出典:【2021年フェアトレード国内市場規模発表】国内フェアトレード市場規模158億円、昨年比120%と急拡大(フェアトレード ジャパン)
このような消費者意識の変化は、企業の行動を大きく変えるだけでなく、サステナビリティが注目される背景のひとつともなっています。
なお、「エシカル」「エシカル消費」については、下記記事でより詳しく解説しておりますので、こちらもあわせてご覧ください。
背景⑤SDGsの推進と国際的な取り組みの広がり
サステナビリティが重要視される背景のひとつとして、SDGs(持続可能な開発目標)の推進と、国際的な取り組みの広がりが挙げられます。
2015年に国連が採択したSDGsは、2030年までに達成すべき17の目標を掲げ、これらはサステナビリティの環境・社会・経済の3つの柱を反映した具体的な指針となっています。
SDGsは、各国政府や企業だけでなく、個人レベルでの取り組みも求められており、これにより国際的な連携が進み、持続可能な社会を目指す動きが加速しています。
また、背景①で述べたように、2016年に発効されたパリ協定(気候変動対策の国際的枠組み)により、地球規模での課題に対応し、各国が共通の目標に向かって努力する仕組みが構築されました。
このように、SDGsをはじめとする国際的な取り組みの広がりは、持続可能な未来を実現するための世界的な基盤となり、サステナビリティが重要視される背景のひとつとなっています。
このSDGsとサステナビリティの区別、関係性について曖昧な方も多いと思いますので、次項で両者の関係性について詳しく解説します。
サステナビリティとSDGsの関係性
サステナビリティとSDGsは、密接な関係を持つ概念です。
前項で述べたように、SDGsは、サステナビリティを実現するための具体的な行動指針として、2015年に国連で採択されました。
17の目標と169のターゲットから構成されるSDGsは、環境、社会、経済の3つの柱を包括的にカバーしており、サステナビリティの実現に向けたグローバルな道筋を示しています。
◆SDGsの17の目標
出典:国際連合広報センター
例えば、目標12「つくる責任つかう責任」や目標13「気候変動に具体的な対策を」は、サステナビリティの環境的側面に関連しています。
一方で、目標1「貧困をなくそう」や目標5「ジェンダー平等を実現しよう」は、社会的側面を支える重要な課題です。
さらに、目標8「働きがいも経済成長も」や目標9「産業と技術革新の基盤を作ろう」は、経済的側面を支える内容となっています。
SDGsの各目標は、サステナビリティを具体的かつ実行可能な形に落とし込んだものであり、政府や企業、個人がそれぞれの立場で果たすべき役割を明確にしています。
SDGsを達成することは、サステナビリティを実現するための重要なステップであり、課題解決に向けたフレームワークと言えます。
では、サステナビリティが重要視されている現在、実際にどのような取り組みが行われているか、いくつかの事例を紹介してまいります。
企業におけるサステナビリティの3つの取り組み事例
近年、多くの企業がサステナビリティを経営戦略の中心に据え、持続可能な社会の実現に向けた具体的な取り組みを進めています。
これらの取り組みは、環境問題への対応だけでなく、社会的課題の解決や経済の持続性を目指すものであり、企業の成長と社会的責任を両立させる重要な役割を果たしています。
ここでは、国内外の企業が取り組むサステナビリティの具体例を紹介します。
事例①ユニクロ
ユニクロは、サステナビリティを企業活動の中心に据え、「服のチカラを、社会のチカラに。」という理念のもと、環境・社会・人に配慮した取り組みを展開しています。
環境への取り組みとしては、サプライチェーン全体で資源の有効活用を進め、地球環境への負担軽減に努めています。具体的には、リサイクル素材の活用や製造工程での環境負荷低減技術の導入などを推進しています。
また、社会貢献活動として、緊急災害時に全国の店舗ネットワークを活かし、衣料品や寄付金による支援を行っており、東日本大震災の際には、33億円相当の支援を実施しました。
そして、人材への取り組みとして、多様な人々が生き生きと働ける環境づくりを重視しています。健康、安全、人権が守られた職場環境の提供や、多様性を尊重した組織づくりを推進しています。
これらの活動は、ユニクロを展開するファーストリテイリングが、年に一度発行する「サステナビリティレポート」により報告され、未来の行動指針も公開しています。
事例②IKEA
IKEAは、2030年までに「ピープル・アンド・プラネット・ポジティブ」を実現することを目標に、環境、サーキュラーエコノミー(循環型経済)、社会的公平性の3つの分野で積極的に取り組んでいます。
環境への取り組みとして、2016年比で温室効果ガス排出量を50%削減し、2050年までにネットゼロエミッションを達成することを目指しています。また、日本国内の店舗では太陽光パネルを導入し、再生可能エネルギーでの運営を推進しています。
また、循環型経済の推進としては、製品のリサイクルや再利用を強化し、製品の寿命を延ばす取り組みを展開しています。スペインやノルウェーでは、中古家具を売買できるプラットフォーム「IKEA Preowned」を導入しています。
社会的公平性においては、従業員の多様性とインクルージョンを推進し、公平で平等な社会の実現を目指しています。
これらの取り組みは、毎年発行される「サステナビリティレポート」に詳細がまとめられ、2030年に向けた目標と進捗状況が報告されています。
事例③オムロン
オムロンは、長期ビジョン「Shaping the Future 2030 (SF2030)」のもと、サステナビリティを企業の存在意義と位置づけ、社会と自社の持続可能な発展を目指しています。
環境面では、社会全体の脱炭素化に貢献するため、企業や自治体、家庭向けにエネルギーソリューションを提供しています。
具体的には、太陽光発電システムの導入支援や、エネルギーマネジメントサービスを通じて、クリーンエネルギーの創出と供給を推進しています。
自社の脱炭素化にも積極的に取り組んでおり、野洲事業所では省エネ対策や太陽光発電の導入により、再生可能エネルギー100%を達成しました。
また、社会面では、人材の多様性と能力開発を重視し、社内外から多様な知識や価値観を持つメンバーを集め、共創を促進するプログラムを実施しています。
これらの取り組みを通じて、オムロンは環境負荷の低減と社会的価値の創出を両立させ、持続可能な社会の実現に貢献しています。
まとめ
サステナビリティの考え方は世界的に広がっていますが、日本においては、言葉自体は認知されてきているものの、日常生活に十分浸透していないのが現状です。
これには、社会全体での情報提供や教育の不足、具体的な行動例の提示が不十分であることが影響していると考えられます。そのため、多くの人が「重要だ」と認識しつつも、「自分ごと」として捉えられていない状況です。
こうした課題を克服するには、行政や企業が率先して取り組みを進め、成功事例やメリットをわかりやすく伝えることが必要です。
これにより、個人レベルでの行動が促進され、サステナビリティがより身近なものになることが期待されます。