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「エシカル」は環境や社会に配慮した行動を指す重要な価値観

2024/09/27

エシカルという考え方

エシカルとは、「倫理的」「道徳的」という意味を持ち、一般的には「環境や社会に配慮した行動や選択」のことを指します。よりわかりやすく言えば、自分の行動が地球や社会、あるいは他の人々にどのような影響を与えるかを考えながら、正しいことを選ぶという考え方であり、昨今は「エシカル消費」「エシカルファッション」といった言葉で使われます。

世界全体で環境問題や労働環境などにおける社会問題が深刻化している現在、エシカルな考え方は、豊かな社会と自然を次世代に残すための重要な価値観となっており、個人や企業を問わず、社会生活におけるエシカルな行動が求められています。

そこで本記事では、エシカルという考え方を正しく理解するために、企業における実際の取り組み事例や、その必要性、また混同されがちな「サステナブル」との違いなど、エシカルについて詳しく解説いたします。

企業における5つのエシカルな取り組み事例

まずは、企業が実践するエシカルな取り組みについて5つの事例を紹介します。

事例① パタゴニア

アパレルやアウトドア用品などを手掛けるブランド「パタゴニア」は、業界の中でも早くから環境保護活動に積極的で、「1% for the Planet」というプログラムを通じて売上の1%を環境保護団体に寄付しています。

また、エシカルファッションの取り組みとして、製品開発においてリサイクルポリエステルやオーガニックコットンを使用した開発を進めており、古くなった製品を回収してリサイクルするプログラムも展開しています。

雇用面では、パタゴニアは製品を製造する工場を所有していないため労働者の賃金を管理することはできませんが、製品の生産においてフェアトレード認証を取得している工場を積極的に活用しています。そして、これらの工場で製造された製品のひとつひとつに賞与(プレミアム)を支払うことで、労働者に対する具体的な恩恵を提供しています。

参考:パタゴニア アウトドアウェア

事例② スターバックスコーヒー

コーヒーチェーン「スターバックス」は、農家と協力し、公正な価格でコーヒーを調達することを約束しています。サプライチェーンにおける労働者の権利や環境保護にも配慮した調達基準「C.A.F.E.プラクティス」を導入し、持続可能なコーヒーの生産を支援しています。

◆C.A.F.E.プラクティスの4つの調達基準

① スターバックスの基準を満たした高品質のアラビカ種のコーヒーであること
② 生産者に対価が適切に支払われていること
③ コーヒー生産に関わる人の権利が保護され、地域社会の支援がされていること
④ コーヒーの栽培環境が保全され、生物多様性が維持されていること

このような取り組みの証として、「エシカルソーシングスタンプ」が商品のパッケージに記載されています。また、プラスチック製のストローを廃止し、再利用可能なカップの使用を推進するなど、プラスチックごみ削減にも積極的に取り組んでいます。

参考:スターバックス コーヒー ジャパン

事例③ ユニリーバ

食品や日用品などの消費財メーカー「ユニリーバ」は、持続可能な製品開発の目標として、2039年までにバリューチェーン全体で温室効果ガス(CO2排出)のネットゼロを目指しており、世界中でCO2排出量削減につながるような製品の開発・処方改良、森林伐採をしない持続可能なサプライヤーからの調達、輸送の効率化などの取り組みを進めています。

2023年末時点で、全世界の工場やオフィスからのCO2排出量を74%削減(2015年比)、再生可能エネルギーは全世界で使用する電力の92%を実現しています。

また同社では、社員やコミュニティへの投資や、公正な労働環境を提供するため、働く場所や時間を社員が自由に選べる「WAA」(Work from Anywhere and Anytime)制度を導入するなど、エシカルなビジネスモデルを展開しています。

参考:Unilever Japan

事例④ 資生堂

化粧品メーカー「資生堂」は、2013年以降、化粧品の開発において動物実験を原則廃止しており、独自の厳格な基準を設けた安全性保証体系を確立し、代替法の開発・導入を進めています。

また、持続可能な原材料の調達による地球環境への配慮を重視した製品開発を行なっており、特に、生態系への影響が大きいパーム油の持続可能な調達に取り組み、RSPO認証のパーム油を使用しています。

同社は、海洋環境の保護にも積極的に取り組んでおり、紫外線防御剤の海洋流出によるサンゴへの影響の研究や、海洋プラスチック問題の解決に向けてプラスチック削減やリサイクル活動を展開しています

参考:資生堂 – Shiseido

事例⑤ サントリー

アルコールおよび清涼飲料水メーカーの「サントリー」は、ペットボトルのリサイクルに積極的に取り組んでおり、2011年、国内飲料業界で初めて「ボトル to ボトル」のリサイクルシステムを確立しました。このシステムは、使用済みのペットボトルから新しいペットボトルを作る循環型のリサイクル手法であり、新規化石由来原料の使用量削減とCO2排出量の削減に貢献します。

2023年には、国内清涼飲料事業における同社の全ペットボトル重量のうち、サステナブル素材(リサイクル素材あるいは植物由来素材等)使用比率は53%まで拡大しました。

また、水資源を守るための取り組みも行なっており、国内をはじめ海外の子供たちも対象に「水育(みずいく)」という環境教育プログラムを展開し、水の大切さを次世代に伝える活動を続けています。

参考:サントリーホールディングス

ここで紹介した企業事例はごく一部であり、現在では国内外の多くの企業が、様々な形でエシカルな取り組みを行っております。

エシカルが必要とされる3つの理由

前項の事例で紹介したようなエシカルな取り組みは、現在、消費やビジネスにおいて特に注目されており、持続可能な社会を目指すためのキーワードとして広がっています。ここでは、そのように注目され、必要とされている3つの理由について詳しく解説します。

理由① 環境保護と持続可能性のため

現在、気候変動や資源の枯渇、あるいは生物多様性の破壊といった環境問題が深刻化しています。大量生産・大量消費型の経済は環境に多大な負荷をかけており、そのような状態が続けば地球の持続可能性が危ぶまれます。

そのような中で、環境負荷を軽減し持続可能な社会を実現するためにエシカルな行動が必要となります。再生可能な資源の利用やリサイクルの促進、プラスチック削減など、エシカルな取り組みを通じて、自然環境を守り生物多様性を維持することで、未来世代にとって持続可能な環境を守ることができます。

理由② 公正で人権を尊重した労働環境の確保のため

下記は、国連児童基金(UNICEF)の報告書による、2020年の世界における児童労働者数を示したグラフです。

◆世界の児童労働者数(2020年)

世界の児童労働者数(2020年)

出典:児童労働に関する世界推計:エグゼクティブサマリー日本語版(unicef)

発展途上国では、安価な労働力を利用した不公正な労働環境が依然として存在し、児童労働や低賃金労働などが問題となっています。そのため、エシカルな取り組みにより労働者の権利を尊重し、公正な賃金や労働条件を提供することが、社会の公平性を高める上で欠かせません。

フェアトレード(※)やエシカルなサプライチェーンにより倫理的なビジネス慣習が確立され、生産者や労働者が適正な報酬と待遇を受けることが可能となり、社会全体の公平性を高めます。

※ 開発途上国の原料や製品を適正な価格で継続的に購入することにより、立場の弱い開発途上国の生産者や労働者の生活改善と自立を目指す貿易のしくみ(参考:フェアトレードとは?|fairtrade japan

理由③ 消費者意識の変化のため

近年、消費者の間でエシカルやサステナブルな商品に対する意識が高まっています。特に、海外のZ世代やミレニアル世代は、環境問題への関心が高く、環境や社会に配慮した商品やサービスを求めており、企業に対しても倫理的な取り組みを期待する傾向にあります。そして今後、日本においてもこの傾向が強まってくると見られています。

◆Z世代とミレニアル世代における関心事の変化(グローバル/日本)

Z世代とミレニアル世代における関心事の変化

出典:Z・ミレニアル世代年次調査2022(Deloitte)

エシカルな取り組みを行う企業は、消費者からの信頼や支持を得やすく、ブランド価値を高めることができます。また、エシカルな活動が普及することで、消費者自身も倫理的な消費行動を意識するようになり、より良い社会を築くための行動の促進につながります。

それでは次に、「エシカル」と「サステナブル」の関係性について詳しく解説します。

エシカルとサステナブルの相違点と共通点

ここまでに「サステナブル」という言葉も何度か出ています。「エシカル」と「サステナブル」は、どちらも環境や社会に配慮した考え方を表しますが、それぞれ異なる視点からアプローチしています。ここでは、両者の違いと共通点について解説します。

エシカルとサステナブルの相違点

エシカルは「倫理的」「道徳的」という意味を持ち、主に社会的・人道的な側面に焦点を当てます。地球環境、人権、労働環境、動物福祉、公正な取引などに関する倫理的な行動により、企業や個人が社会全体に対してどのように責任を果たすかを強調しています。

サステナブルは「持続可能」という意味で、環境の保護や資源の節約に焦点を当てています。サステナブルな取り組みは、地球環境への負荷を最小限に抑え、長期的に環境資源を維持しながら社会全体を成長させることを目指します。

つまり、エシカルは個人の倫理的、道徳的な行動を重視しているのに対し、サステナブルはより大局的な視点で持続可能な社会を作ることを重視しており、「エシカルはサステナブルな社会を実現するための方法のひとつ」という関係性にあります。

エシカルとサステナブルの共通点

エシカルとサステナブルは、どちらも地球環境への負荷を減らし、持続可能な未来を目指している点で共通しています。また、労働者の権利を尊重し、公正な取引を行う点も共通しています。これらの共通点から、企業のCSR(企業の社会的責任)活動の中で、エシカルとサステナブルの両方の要素が取り入れられるケースも増えています。

エシカルとサステナブルは相互補完の関係性

エシカルな取り組みが必ずしもサステナブルであるとは限らない一方で、サステナブルな活動も倫理的であるとは限りません。しかし、持続可能な社会を実現するためには、両方の視点が必要不可欠になります。例えば、労働者の権利を守りながら環境に優しい生産方法を取り入れることが求められているといったことがあります。

このように、両者は持続可能な社会を実現するために相互に補完し合う関係にあるのです。

エシカル消費の3つのメリット

エシカルの考え方にもとづく具体的な行動のひとつとして「エシカル消費」があります。エシカル消費とは、商品やサービスを購入する際に、単に価格や品質だけでなく、商品がどのように生産され、誰が関わり、どのような影響を及ぼしているかを意識して購入することを重視する考え方です。

近年、消費者一人ひとりの購買行動が社会や環境に与える影響が大きいという点から、エシカル消費が大きく注目されています。ここでは、エシカル消費の3つのメリットについて解説します。

メリット① 環境保護への貢献

エシカル消費は、環境に優しい商品を選ぶことでプラスチックごみの削減やCO2排出抑制など、環境保護に直接貢献します。オーガニック製品や再生可能な素材を使った商品を購入することで、地球環境への負荷を軽減することができます。

メリット② 社会的な公正さの維持

フェアトレード商品などを選ぶことで、発展途上国の生産者や労働者が適正な報酬を受け取り、労働環境の改善や生活水準の向上に貢献します。エシカル消費を行うことで、社会的な公正さを保つことができます。

メリット③ 企業のブランドイメージと信頼性の向上

現代の消費者は、企業が社会的・環境的な責任を果たしているかを重視する傾向が強まっているため、企業がエシカル消費に取り組むことで、企業は消費者からの信頼と好感を得ることができ、ブランドイメージの向上につながります。これにより、競合他社との差別化を図ることも可能となります

次に、エシカル消費が抱える課題についても解説してまいります。

エシカル消費の3つの課題

エシカル消費には多くのメリットがある一方で、いくつかの課題も抱えています。

課題① 価格が高い

オーガニック商品やフェアトレード商品などのエシカルな商品は、認証コストや管理コスト、人件費、輸送コストなど、商品の基準を満たすための様々なコストがかかるため、どうしても一般的な商品よりも価格が高くなる傾向があります。そのため、消費者がエシカルな選択をしづらいという課題があります。

課題② 情報が不足している

エシカル消費を実践するためには、製品がどのように生産され、流通しているかの情報が必要ですが、その情報が十分に提供されていないケースもあります。加えて、身近な店舗でエシカル商品が取り扱われていることが少なく、日常的に購入することが難しい面があります。

商品の情報がなく手に触れる機会もなければ、消費者がエシカルな判断を下せず、エシカル消費を行うこと自体が困難になります。

課題③ エシカルの定義が曖昧

「エシカル」という意味自体が「倫理的」「道徳的」といった抽象性を含むため、その定義や基準は個々の消費者や企業によって異なります。そのため、何が本当にエシカルなのか判断することが難しい面があります。

また、一部の企業が「グリーンウォッシング」と呼ばれる、見かけだけ環境に配慮しているように見せる行為を行うケースもあります。これが、信頼性を疑問視する要因となっているため、欧米などで規制が進んでいます。

参考:世界で進むグリーンウォッシュ規制は何を変えるのか?(Yahoo!ニュース / 2024年3月8日掲載)

このような課題は、特に日本でエシカル消費が浸透しない要因のひとつとなっています。

まとめ

世界でSDGsの目標が掲げられ、サステナブルな社会の実現が求められている現在、エシカルという考え方は、今後は企業が成長するために必須の価値観となっていくはずです。

企業が社会的責任を果たし、環境に配慮し、労働者やコミュニティに対して倫理的・道徳的な取り組みを行うことは、今や単なる選択肢ではなく、ビジネスの成功や持続性を確保するための重要な要素となりつつあります。

これからは、エシカルは個人だけではなく、企業の在り方としてもより標準的で不可欠な価値観として定着していくであろうと筆者は考えます。