バリアフリー法とは人々の円滑な移動と施設の利用を促す法律
2025/01/31

バリアフリー法(正式名称:高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律)は、すべての人が安全・快適に移動し、施設を利用できる社会の実現を目的として、2006年に施行されました。
この法律が制定された背景には、
・ユニバーサルデザイン(※)の重要性の高まり
といった影響があります。
もともと日本では、建築物のバリアフリー化を定めた「ハートビル法(1994年施行)」と、交通機関のバリアフリーを進める「交通バリアフリー法(2000年施行)」が存在していました。
しかし、これらはそれぞれ異なる視点でバリアフリー化を進める法律であり、一貫した政策とは言えませんでした。
そこで、これらの法律を統合し、建築物・交通機関・道路などを包括的にバリアフリー化するために制定されたのが「バリアフリー法」です。
本法律は、建築物や交通機関の整備だけでなく、事業者・自治体・国民それぞれがバリアフリー社会の実現に向けて果たすべき役割を明確にし、社会全体での取り組みを促進するものです。
本記事では、バリアフリー法の中身について詳しく解説するとともに、事業者が得られるメリットなどについても紹介しながら、バリアフリーの取り組みを進める上で重要なポイントを分かりやすくまとめました。
目次
バリアフリー法が重視する3つのポイント
国土交通省が定める「高齢者、障害者等の円滑な移動等に配慮した建築設計標準」では、バリアフリー法の基本方針が詳細に定められています。
この方針を読み解くと、バリアフリー法が特に重視するポイントは、以下の3つに絞られます。
◆バリアフリー方が重視する3つのポイント
②バリアフリー化の基準を設定し、事業者や自治体に求める
③国・自治体・事業者の役割を明確化する
バリアフリー法は、すべての人が移動しやすい環境を整えるために、建築物や交通機関、道路などのバリアフリー化を推進しており、一定規模以上の施設には基準が設けられ、バリアフリー対応が求められます。
また、国や自治体は重点整備地区を設定し、計画的にバリアフリー環境を整備するとともに、事業者には法に基づいたバリアフリー対応の義務あるいは努力義務が課され、施設の改修や運営面での対応が求められます。
こうした役割分担により、国が法制度を整備し、自治体が地域の実情に合わせて施策を実施し、事業者が実際のバリアフリー対応を進めるという協力体制が確立されています。
上記3つのポイントを基盤とすることで、国・自治体・事業者が連携しながらバリアフリー施策を推進し、すべての人が安心して移動し、施設を利用できる環境が整えられていきます。
結果として、社会全体のバリアフリー化が促進され、多様な人々が快適に暮らせる社会の実現につながっていきます。
そして、こうしたバリアフリー施策をより効果的に推進するため、2018年と2019年にバリアフリー法の改正が行われました。改正によってどのような点が強化・拡充されたのかを次に解説します。
改正法により、さらにバリアフリー化が促進
バリアフリー法は、2018年および2019年に、東京オリンピック・パラリンピックを契機に、さらなるバリアフリー化の推進と共生社会の実現を目指し、法改正が行われました。
主な改正内容は以下の通りです。
・基本理念の明確化
バリアフリー施策が「共生社会の実現」や「社会的障壁の除去」に資することを法律上の基本理念として明記し、従来までのハード面(設備の整備)だけでなく、ソフト面(心のバリアフリーや情報提供)の重要性も明確にされました。
・公共交通施設や建築物等のバリアフリー化の推進
従来の鉄道やバス、空港などの交通機関に加えて、貸切バスや遊覧船も新たに適用対象となり、事業者にはバリアフリー設備の設置義務だけでなく、情報提供や従業員の接遇研修などのソフト面での取り組みも求められるようになりました。
・地域における重点的・一体的なバリアフリー化の推進
各市町村が 「移動等円滑化促進方針(マスタープラン)」 を策定し、地域ごとの特性に応じたバリアフリー整備を計画的に進める仕組みが導入されるとともに、特にバリアフリー化を優先すべき地区を「重点整備地区」として指定できる制度も設けられました。
・心のバリアフリーの推進
バリアフリー化を物理的な整備だけでなく、社会全体の意識改革を通じて推進するため、国民一人ひとりの理解と協力の促進を明文化するとともに、当事者(高齢者や障がい者)がバリアフリー施策の評価に参加する仕組みが導入されました。
改正バリアフリー法は、単に施設のバリアフリー化を促進するだけでなく、社会全体でバリアフリーを推進する仕組みを整えることを目的としています。今後も、法改正の趣旨を活かしながら、すべての人が快適に暮らせる社会の実現に向けたさらなる取り組みが求められます。
では次に、バリアフリー法の適用範囲や基準について解説します。
バリアフリー法における「施設・設備の基準」と「対応例」
バリアフリー法は、すべての人が快適に移動・利用できる環境を整備するために、様々な施設に対してバリアフリー化を求めています。
ここでは、具体的にどのような施設・設備が対象となり、どのような基準や対応が求められているのかについて、一部の例として以下の表で整理しました。
◆バリアフリー法における施設・設備の基準と対応例
分野 | 対象施設・設備 | バリアフリー化のポイント | 主な基準・対応例 |
建築物 | 商業施設、病院、ホテル、劇場、役所 | 出入口の段差解消、エレベーターや多目的トイレなどの設置 | ・出入口の最低幅(80cm以上) ・エレベーターのサイズ調整(奥行き135cm以上、幅160cm以上) ・多目的トイレへの手すり設置、車椅子対応の広さ |
学校、福祉施設、オフィスビル | スロープやエレベーター、視覚障がい者用誘導設備などの設置 | ・エレベーターの設置義務(一定規模以上) ・点字ブロック設置 |
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マンション・アパート(一定規模以上) | 共用部のバリアフリー設計(エレベーター、廊下幅の確保)など | 共用スペースにバリアフリー設備を整備 | |
交通機関 | 鉄道駅、バスターミナル、空港、フェリー | エレベーター、点字ブロック、車椅子対応改札などの設置 | ・エレベーターの設置義務 ・点字ブロックの適正配置 |
ノンステップバス、UDタクシー | 車椅子やベビーカーのスペース確保、乗降しやすい構造 | 一定台数以上をバリアフリー対応車両にする | |
鉄道車両 | 車椅子やベビーカーのスペース確保、乗降しやすいドアの設計 | 車椅子スペースの確保(1列車2ヶ所以上、新幹線は1列車3ヶ所以上 など) ・手すりの配置 |
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道路・公共施設 | 交差点、歩道、公園、公共広場 | スロープ設置、バリアフリー歩道の整備 | ・車椅子用スロープの設置 ・歩道幅の確保 ・点字ブロック設置 |
信号機 | 視覚障がい者向けの安全対策 | ・音響式信号の配置 | |
スロープ、歩道橋 | 段差の解消、転倒防止のための手すり設置 | ・スロープの勾配(屋内は1/12以下、屋外は1/15以下) ・手すりの材質は耐久性のあるもので、両側に設置 |
上表は、一部の代表的な例をまとめたものですが、バリアフリー法の適用範囲は広く、商業施設や病院といった建築物だけでなく、鉄道やバスなどの交通機関、さらには歩道や公園といった公共空間まで含まれます。
また、バリアフリー化の基準も単なる段差解消やエレベーター設置などにとどまらず、視覚障がい者向けの点字ブロックや音響式信号機など、多岐にわたることがわかります。
このように、バリアフリー法は「移動のしやすさ」だけでなく、「施設の使いやすさ」までを包括的に定めているのが特徴です。
例えば、一軒の建築物においても、下記のように多くのポイントでバリアフリー対応が求められます。
◆建築物におけるバリアフリーのポイント
バリアフリー法に則って、細部にわたってバリアフリー化を実施することで、高齢者や障がい者だけでなく子どもや妊娠中の方など、誰もが利用しやすい建築物になります。
バリアフリー法には具体的な基準があるが、すべてが義務ではない
バリアフリー法には明確な基準が設けられていますが、すべての施設が無条件に義務を負うわけではありません。
例えば、新築や大規模改修を行う建築物には、バリアフリー基準の適用が義務付けられていますが、既存の建築物や交通機関については「できる限り対応すること」が求められる、いわゆる“努力義務の範囲”にとどまるケースもあります。
また、交通機関においても、駅やバスターミナルなどは基準を満たすことが義務となる一方で、ノンステップバスやユニバーサルデザインタクシーの導入は努力義務とされています。
このように、すべての施設・設備が一律にバリアフリー対応を義務付けられているわけではなく、施設の種類や改修のタイミングによって適用範囲が異なります。
それでは、バリアフリー法に基づいた取り組みを行うことで得られるメリットについて触れていきます。
バリアフリー法に基づく建築物の4つのメリット
バリアフリー法に基づいた取り組みを行うことは、社会的なメリットだけでなく、事業者が得られる具体的なメリットもあります。ここでは、特に建築物を例にして具体的なメリットを紹介します。
バリアフリー化を実施し、建築物移動等円滑化誘導基準に適合した特定建築物であることが所管行政庁に認定された場合、下記のようなメリットが得られます。
メリット①容積率の特例が適用される
バリアフリー対応のために必要なスペース(例:車いす対応トイレや広めの廊下など)を設ける場合、延べ面積の1/10を限度に容積率の算定から除外することができます。
これにより、建築計画の柔軟性が高まり、施設全体の有効活用が可能になります。
メリット②税制上の特例措置が受けられる
認定を受けた特別特定建築物(床面積の合計が2,000平方メートル以上、50,000平方メートル未満で、昇降機を設けたもの)については、所得税や法人税の割増償却(10%、5年間) が適用されます。
これにより、初期投資の負担を軽減しながら、バリアフリー対応を進めることができます。
メリット③補助金や低利融資の活用
バリアフリー化を推進する建築物に対して、国や自治体からの補助金制度や、日本政策金融公庫などの低利融資制度が利用できる場合があります。
これらの支援策を活用することで、事業者の経済的負担を軽減しながら、施設のバリアフリー対応を進めることが可能になります。
メリット④シンボルマークの表示によるPR効果
バリアフリー法に基づく認定を受けた建築物は、「ハートビルマーク」 を表示することができます。
このシンボルマークは、バリアフリー対応が十分に施された施設であることを示し、利用者に対して安心感を提供するとともに、企業の社会的責任(CSR)活動としても評価されるため、施設の利用促進やイメージ向上につながります。
以上に挙げたメリットは、国土交通省のパンフレット「ハートのあるビルをつくろう」より引用しています。この資料では、バリアフリー建築の重要性や、事業者が得られる具体的なメリットについて詳しく解説されていますので、本記事とあわせてぜひご覧ください。
ここでは、バリアフリー法に基づいた取り組みを行うことで得られるメリットについて解説しました。
では、もしバリアフリー法に従わなかった場合、罰則はどのように規定されているのか、次に解説します。
バリアフリー法の違反に対しては300万円以下の罰金が科される
バリアフリー法に違反した場合に、どのような罰則があるのか気になる方も多いと思います。
バリアフリー法には、自治体の命令に従わない事業者に対し、300万円以下の罰金を科すという規定が設けられています。
これは、建築物や公共交通機関などのバリアフリー基準に適合していない場合に、自治体が是正命令を出し、それに従わなかった場合に適用されるものです。
具体的には、以下の条項に基づいて罰則が適用されます。
◆バリアフリー法に定められた罰則規定(要約)
第59条:
第9条第3項(特定建築物のバリアフリー化義務)、第12条第3項(公共交通機関のバリアフリー化義務)、第15条第1項(重点整備地区でのバリアフリー施策)に違反し、自治体からの命令に従わなかった場合、300万円以下の罰金が科される。
第60条:
その他の規定違反に対しては、100万円以下の罰金が科されることがある。
このように、バリアフリー法は罰則を伴う義務規定を含んでおり、特定の違反に対しては法的措置が取られる仕組みになっています。
バリアフリー法の罰則は、単に事業者を処罰するためのものではなく、バリアフリー環境の整備を強制的に推進するための措置です。
特に、商業施設や公共交通機関のように多くの人が利用する施設では、バリアフリー基準の未達成が社会全体に大きな影響を及ぼす可能性があるため、命令違反に対する罰則が設けられています。
また、罰則があるとはいえ、バリアフリー法は基本的に「罰則による抑止」よりも「インセンティブ(補助金など)による促進」 を重視しており、違反を取り締まるよりも、バリアフリー化を進める方向での施策が中心となっています。
努力義務の範囲においては罰則はない
先に述べたように、バリアフリー法は、すべての施設に対して一律に義務を課すのではなく、施設の種類や状況に応じて「義務」と「努力義務」に分けられています。
バリアフリー化は、改修工事や新たな設備導入にコストがかかるため、すべての事業者に強制すると経済的な負担が大きくなりすぎるという側面があります。
そのため、義務化が難しい部分については「努力義務」として、できる限りの対応を促す形になっています。
しかし、罰則はないものの、努力義務を怠ることで事業者にデメリットが生じる可能性もあるため、注意が必要です。
◆努力義務を怠ることで生じる可能性のあるデメリット
・バリアフリー対応の不備による企業イメージの低下
・利用者の利便性が低下し、集客に影響を及ぼす
このように、罰則がなくとも、社会的・経済的な影響を受ける可能性があるため、努力義務の範囲でも積極的な対応が推奨されます。
まとめ
バリアフリー法は、高齢者や障害がい者を含むすべての人々が安全かつ快適に移動し、施設を利用できる社会を実現するための法律であり、多様化が進む現代社会において誰もが平等にアクセスできる環境を整備し、共生社会を実現するための重要な指針です。
バリアフリー化は、利用者や社会的なメリットだけでなく、バリアフリー化を進めることで、容積率の緩和や税制優遇、補助金の活用などのメリットも得られるなど、事業者にとっても積極的に取り組む意義が大きい施策です。
本記事では、バリアフリー方について詳しく解説しましたが、実際にどのような形でバリアフリーが取り入れられているのかについて、以下の記事で具体的なバリアフリーの取り組みを紹介していますので、ぜひあわせてご覧ください。