欧州アクセシビリティ法とはアクセシビリティのEU共通ルール
2025/04/30

欧州アクセシビリティ法(European Accessibility Act:EAA)は、障がいのある人や高齢者を含むすべての人々が、製品やサービスを平等に利用できる環境を整備することを目的とした、EUの包括的な指令(※)です。
高齢化の進行や障がい者人口の増加を背景に、EUでは社会的包摂(ソーシャルインクルージョン)を重視した政策が進められており、アクセシビリティの確保は重要な課題となっています。
加えて、障がい者差別の撤廃やデジタル単一市場の形成を目指す動きの中で、加盟国ごとに異なっていた基準を統一する必要性が高まっていました。
こうした背景を受け、欧州アクセシビリティ法は2019年にEU指令(Directive (EU) 2019/882)として採択され、すべての加盟国に対して国内法化が義務づけられています。
欧州アクセシビリティ法では、主に下記の製品・サービスを対象にアクセシビリティ対応が求められます。
対象カテゴリ | 具体例 | 主なアクセシビリティ要件 |
---|---|---|
電子通信サービス | 携帯通信、固定電話サービス | 音声読み上げ対応、視覚障害者向けUI、代替手段の提供 |
メディア関連機器 | テレビ受信機、セットトップボックス | 字幕、音声ガイド、ユーザビリティ強化 |
Eコマース | オンラインショップ、電子契約サービス | キーボード操作対応、色に依存しない設計、WCAG2.1適合 |
バンキング関連 | ATM、ネットバンキング、POS端末 | 音声出力、画面拡大、視覚/聴覚対応UI |
電子書籍 | 電子書籍端末、リーダーアプリ | テキスト読み上げ、フォント調整、構造化された目次 |
公共交通 | 自動券売機、案内表示システム | 視覚・聴覚両面での案内、画面読み上げ、操作性 |
緊急通報サービス | 112番等のEU緊急通報 | 音声以外の通報手段、リアルタイム通信対応 |
汎用PCソフト/ハード | OS、PC、スマホなど | 操作補助、スクリーンリーダー対応、設定変更機能 |
本記事では、欧州アクセシビリティ法の概要や先進企業の取り組み事例、また日本における「障害者差別解消法」との違いも含め、詳しく解説してまいります。
EU市場でのビジネス展開を検討している企業にとって、EAAへの対応は避けて通れない課題ですので、必ず本記事をご覧いただき、要件を確認してください。
※ 欧州アクセシビリティ法は、正式には「製品及びサービスのアクセシビリティ要件に関する 2019年4月17日の欧州議会及びEU理事会指令(Directive (EU) 2019/882)」であり、厳密には法律ではなく「EU指令」にあたります。本記事では便宜上、「法律」「本法」として表記していますので、あらかじめご了承ください。
目次
欧州アクセシビリティ法の7つの基礎情報
2025年6月、欧州アクセシビリティ法(European Accessibility Act:EAA)が施行されます。本法は、製品・サービスの提供において、誰もが平等に利用できる環境の整備を義務づける、EUの包括的なルールです。
日本企業にとっても、EC、ソフトウェア、電子機器などをEU域内で展開している場合は、対応が必須となります。
ここではまず、欧州アクセシビリティ法の基本的な部分を知るために、7つの基礎情報を解説します。
基礎情報① 欧州アクセシビリティ法とは、どのような法律か
高齢者や障がいのある方を含むすべての人が、製品・サービスを平等に利用できるようにすることを目的としたEUの共通ルールです。2025年6月28日より施行され、特定の製品・サービスに対してアクセシビリティの確保が義務づけられます。
基礎情報② どのような企業に関係があるか
欧州市場で製品やサービスを提供するすべての企業が対象です。日本国内に拠点を置く企業であっても、EU域内でECサイトやソフトウェアを展開していれば、原則として対応が求められます。
基礎情報③ 対象となる製品やサービスには、どのようなものがあるか
電子通信サービス、電子書籍、スマートフォン、ATM、チケット販売機、POS端末、ECサイトなどが対象に含まれます。物理的な製品だけでなく、それに付随するアプリやサポート体制も対象です。詳しくは後述の表をご覧ください。
基礎情報④ ウェブサイトだけに対応すれば問題ないか
アクセシビリティ法ではウェブサイトだけでなく、製品本体、モバイルアプリ、説明書やサポート手段なども含めた総合的な対応が求められます。
基礎情報⑤ 対応する際に参照すべき基準はあるか
技術要件は「EN 301 549」というEUの標準に基づいています。特にウェブやアプリについては「WCAG 2.1 AA」への準拠が基本とされています。
基礎情報⑥ 法律に違反した場合、どのようなリスクがあるか
各加盟国の監督当局によって罰金・是正命令などの行政措置が科される可能性があります。また、CEマーキング(※)が認められず、EU域内での販売が制限される場合もあります。
欧州アクセシビリティ法に基づく違反に対するEU加盟国の罰則は、例えば以下のようなものがあります。
・フランス
ウェブアクセシビリティ基準を満たさない民間企業は、5万ユーロの罰金が科せられる可能性があります。また、アクセシビリティに関する声明や複数年アクセシビリティ計画の未発表など、関連する違反行為に対しては、2万5千ユーロの追加罰金が科せられる可能性があります。
・イタリア
アクセシビリティ要件を満たさない場合、年間売上高の最大5%の罰金が科される可能性があります。
・ドイツ
アクセシビリティ要件を満たさない製品やサービスの販売に対して、最大10万ユーロの罰金が科される可能性があります。また、製品およびサービスのアクセシビリティに関する正確な情報を証明しなかったとして、1万ユーロの罰金が科せられたケースがあります。
・スペイン
軽微な違反の場合は3万ユーロ、重大な違反の場合は15万ユーロ、非常に重大な違反に対しては60万ユーロと、違反の程度に応じて罰金額が変わります。また、再犯者には、罰則の対象となった行為と同じ行為を最長2年間禁止する場合もあります。
引用:Top Penalties for EAA Non-compliance(Level Access)
※ EU加盟国で製品を販売する際に、「その製品がEUの安全・健康・環境保護などに関する基準に適合している」ことを示す自己宣言マークのこと
基礎情報⑦ 施行まで時間があるが、今から準備すべきか
要件の把握から実装、検証までには一定の期間を要するため、早期に対応体制を整えることが重要です。特に多言語対応や社内教育が必要な企業では、準備期間の確保が不可欠です。
これから欧州でのビジネス展開を検討している日本企業は、これらの基礎情報を必ず把握しておいてください。
欧州アクセシビリティ法における対象と要件
次に、具体的にどのような製品・サービスが対象となるのかについて、主な対象カテゴリと、それぞれに求められるアクセシビリティ対応の例をまとめましたので、以下をご覧ください。
◆欧州アクセシビリティ法における対象と要件一覧
対象カテゴリ | 具体例 | 主なアクセシビリティ要件 |
---|---|---|
電子通信サービス | 携帯通信、固定電話サービス | 音声読み上げ対応、視覚障害者向けUI、代替手段の提供 |
メディア関連機器 | テレビ受信機、セットトップボックス | 字幕、音声ガイド、ユーザビリティ強化 |
Eコマース | オンラインショップ、電子契約サービス | キーボード操作対応、色に依存しない設計、WCAG2.1適合 |
バンキング関連 | ATM、ネットバンキング、POS端末 | 音声出力、画面拡大、視覚/聴覚対応UI |
電子書籍 | 電子書籍端末、リーダーアプリ | テキスト読み上げ、フォント調整、構造化された目次 |
公共交通 | 自動券売機、案内表示システム | 視覚・聴覚両面での案内、画面読み上げ、操作性 |
緊急通報サービス | 112番等のEU緊急通報 | 音声以外の通報手段、リアルタイム通信対応 |
汎用PCソフト/ハード | OS、PC、スマホなど | 操作補助、スクリーンリーダー対応、設定変更機能 |
欧州アクセシビリティ法は、障がいの有無にかかわらず誰もが平等に製品・サービスを利用できることを目的とし、EU域内で提供される一定の製品やサービスに対して、アクセシビリティへの対応を義務づけるものです。
電子通信、電子書籍、ECサイト、ATMなど、日常生活やビジネスに関わる幅広い製品・サービスが対象とされており、対象範囲は、単にデジタル製品やウェブサイトにとどまらず、それに付随するアプリケーションやユーザーサポート、契約プロセスにまで及びます。
また、それぞれの製品・サービスにおいて求められる要件も、視覚・聴覚・操作性など複数の観点から細かく定められており、単純な表示変更や機能追加だけでは対応しきれないケースも少なくありません。
そのため、企業側には、自社の製品やサービスがどこまで影響を受けるのか、あらかじめ正しく把握しておくことが求められます。
参考:Directive (EU) 2019/882 of the European Parliament and of the Council、European accessibility act
それでは次に、実際に欧州アクセシビリティ法に対応している海外企業の事例を紹介します。
欧州アクセシビリティ法に対応する5つの企業事例
ここでは、欧州アクセシビリティ法への対応を進めている企業の代表的な事例を紹介します。これらの事例は、本法への対応を検討する企業にとって、具体的な参考となるはずです。
事例① 「Microsoft(米国)」はWindowsやOffice製品においてアクセシビリティを向上
マイクロソフトは、欧州市場における製品やサービスのアクセシビリティ向上に取り組んでおり、欧州アクセシビリティ法の要件に対応しています。
同社は、WindowsやOffice製品において、スクリーンリーダー対応やキーボードナビゲーションの最適化など、視覚障がい者を含むすべてのユーザーが利用しやすい環境を整備しています。
また、技術要件である「EN 301 549」に準拠したアクセシビリティ適合報告書(ACR)を公開し、製品のアクセシビリティ対応状況を明示しています。
事例② 「SAP(ドイツ)」はアプリ製品においてWCAG 2.1の基準に準拠
SAPは、企業向けソフトウェア製品において、欧州アクセシビリティ法の要件に対応するアクセシビリティの向上に取り組んでいます。
ウェブベースのアプリケーションやモバイルアプリにおいて、WCAG 2.1の基準に準拠した設計を行い、すべてのユーザーが利用しやすい環境を提供しています。
また、「SAP Commerce CloudのComposable Storefront」において、WCAG 2.2への対応を進めており、2025年第1四半期にアップデートを予定しています。
参考:SAP Commerce Cloud – European Accessibility Act Support(SAP コミュニティページ)
事例③ 「Apple(米国)」はiOSやmacOSにおいて多彩なアクセシビリティ機能を提供
Appleは、iOSやmacOSなどの製品において、視覚や聴覚に障がいのあるユーザーを含む多様なユーザーに配慮したアクセシビリティ機能を提供しています。
これらの機能は、製品のアクセシビリティを向上させ、欧州アクセシビリティ法の要件に対応する取り組みの一環とされています。
また、Appleは欧州連合のデジタルサービス法(DSA)に基づき、EU域内でアプリを配信する開発者に対して、連絡先情報(住所、電話番号、メールアドレス)の提供を求めています。
この情報は、App StoreやApple Booksなどのプラットフォーム上で公開され、消費者が提供者を特定しやすくすることを目的としています。
参考:Manage European Union Digital Services Act trader requirements(Apple Developer)
事例④ 「IKEA(スウェーデン)」はオンライン・オフラインでアクセシビリティ対応を推進
IKEAは、デジタル領域におけるアクセシビリティ向上の取り組みを強化しています。
ウェブサイトやモバイルアプリでは、キーボードナビゲーションの最適化や色のカスタマイズなど、誰もが利用しやすい設計を進めるとともに、アクセシビリティチェックツール等を用いて、技術的な品質向上に取り組んでいます。
また、フィンランド・Vantaa店舗では、視覚障がい者向けのライブナビゲーションツールを試験導入し、多言語による音声案内を提供するなど、リアル店舗においてもアクセシビリティ対応を推進しています。
参考:アクセシビリティ(IKEA)、IKEA Unveils Vision for Digital Accessibility and Inclusion(HFBusiness)
事例⑤ 「Adobe(米国)」はPDF文書のアクセシビリティ向上を支援
Adobeは、企業が欧州アクセシビリティ法(EAA)に対応するための支援として、PDF文書のアクセシビリティ向上を目的とした各種ツールを提供しています。
Adobe Acrobatのアクセシビリティチェッカーや自動タグ付けサービスを活用することで、スクリーンリーダー対応などの基準を満たす文書作成が容易になります。
また、専門知識がなくてもアクセシビリティ対応が進められるガイド機能(Guided Actions)も備え、企業がEAA要件を満たしたコンテンツ提供を実現できる環境を整えています。
参考:Build in accessibility – and be ready for business in Europe.(Adobe)
では次に、日本国内の制度である「障害者差別解消法」との比較を通じて、欧州アクセシビリティ法の特徴や対応の違いについて整理していきます。
日本における「障害者差別解消法」との共通点と相違点
欧州アクセシビリティ法の内容を知り、「日本の障害者差別解消法とどう違うのか?」と疑問を持たれた方もいるかもしれません。
実際、日本国内でも2024年の改正により、民間企業に対してアクセシビリティへの「合理的配慮の提供」が義務化されるなど、対応の強化が進んでいます。
欧州アクセシビリティ法と、日本国内で施行されている障害者差別解消法は、いずれも「誰もが平等に利用できる環境の実現」を目的としています。
ただし、制度の仕組みや対象の範囲、企業に求められる義務の強さといった点には、いくつかの大きな違いがあります。
両制度の共通点と相違点を整理し、以下の表にまとめましたのでご覧ください。
◆欧州アクセシビリティ法と障害者差別解消法の「共通点」
項目 | 内容 |
---|---|
目的 | 障がいの有無にかかわらず、すべての人が社会的に平等に利用できる環境の実現 |
アクセシビリティ基準 | ウェブ・アプリなどの情報アクセシビリティにおいて、WCAG 2.1(主にAA)を準拠基準として採用している |
対象となる技術領域 | ウェブサイトやアプリなど情報取得手段に関するアクセシビリティ対応が重視されている(※ただしEAAは電子的製品・サービスに限定、日本はより広範な社会活動が対象) |
◆欧州アクセシビリティ法と障害者差別解消法の「相違点」
項目 | 欧州アクセシビリティ法(EAA) | 障害者差別解消法(日本) |
---|---|---|
法的性質 | EU指令(加盟国で法制化が義務) | 国内法(行政機関・民間事業者に適用) |
適用範囲 | EU域内で販売・提供される特定の製品・サービス(PC、ATM、ECサイトなど) | 日本国内の行政機関およびすべての事業者(公共・民間問わず) |
義務の対象 | 欧州市場で製品・サービスを提供する企業 | 日本国内で事業を行う全企業(特に行政機関に対しては義務) |
実効性の担保 | CEマーキング、監督当局による是正命令や罰金 | 行政指導・助言が中心。民間事業者は「合理的配慮」が基本 |
対応の強制力 | 強い(義務化、違反時の市場排除・罰則あり) | 相対的に弱い(努力義務、訴訟リスクは限定的) |
欧州アクセシビリティ法と日本の障害者差別解消法は、どちらも「誰もが平等に利用できる社会」の実現を目指す点で共通しています。
特に、ウェブサイトやアプリケーションといった情報取得手段におけるアクセシビリティ対応については、両制度とも国際的な基準であるWCAGに準拠しており、実務面でも重なる領域が多く存在します。
一方で、制度の構造や企業への影響という観点では、両者には明確な違いがあります。
欧州アクセシビリティ法は、特定の電子的製品・サービスに対してアクセシビリティを義務づけ、適合しない場合にはCEマーキングができず市場から締め出される可能性もあるなど、法的な拘束力が極めて強いのが特徴です。
これに対して、障害者差別解消法はより包括的な社会的配慮を求めるものであり、その適用範囲は広いものの、特に民間企業に対しては“合理的配慮の提供”を基本とする比較的柔軟な対応が求められています。
このように、名称こそ似ていても、対応の前提となる法的枠組みや要求レベルには大きな違いがあることを理解することが、正確なリスク評価と対応方針の策定には欠かせません。
なお、障害者差別解消法については、下記記事でより詳しく解説しておりますので、ぜひ本記事とあわせてご覧ください。
欧州アクセシビリティ法への対応を支援するアクセシビリティツール「ユニウェブ」
欧州アクセシビリティ法(EAA)の施行により、企業はウェブサイトやデジタルサービスのアクセシビリティ対応を求められています。このような状況下で、日本国内のウェブアクセシビリティツール「ユニウェブ」は、迅速かつ効果的な対応を支援するソリューションとして注目されています。
ユニウェブは、視覚や聴覚に障がいのあるユーザー、高齢者、一時的な障がいを持つユーザーなど、さまざまなニーズに対応する機能を備えており、ウェブサイトにコードを一行追加するだけで、即座にアクセシビリティ機能を提供します。これにより、専門的な知識や大規模な開発リソースを必要とせず、迅速な対応が可能となります。
主な機能として、以下のようなアクセシビリティ機能を提供します。
◆ユニウェブが提供するアクセシビリティ機能(一部)
・文字サイズの調整:ユーザーが読みやすいように文字サイズを変更できます。
・色のコントラスト調整:色覚に特性のあるユーザーが情報を正確に認識できるよう、色のコントラストを調整します。
・ページ構造の表示:ページの構造を明確にし、ナビゲーションを容易にします。
これらの機能は、あくまでユニウェブの多彩な機能の一部です。本記事の右下に表示されている「ピンクの人型アイコン」をクリックすれば、ユニウェブのアクセシビリティ機能を体験することができますので、ぜひお試しください。
ユニウェブは、国内のJIS規格および国際的なWCAG(Web Content Accessibility Guidelines)に準拠しています。さらに、規格のアップデートにも自動で対応するため、常に最新の基準を満たすことができます。
欧州アクセシビリティ法への対応は、企業の社会的責任を果たすとともに、より多くのユーザーにサービスを提供する機会を広げます。ユニウェブは、その実現を支援する強力なツールとして、企業のアクセシビリティ対応をサポートします。
まとめ
欧州アクセシビリティ法は、EU加盟国間で異なっていたアクセシビリティの基準を統一し、EU市場での製品・サービス提供において、アクセシビリティ対応を求める重要な規制です。
日本企業にとっては、法制度やビジネス慣習の違いから、対応に際して技術的・人的な課題が生じることがあります。しかし、計画的な対応を進めることで、すべてのユーザーにとって利用しやすい製品・サービスの提供が可能となります。
欧州アクセシビリティ法への対応は一朝一夕には実現できませんが、計画的に取り組むことで、すべてのユーザーにとって利用しやすい製品・サービスの提供が可能となります。