ユニウェブ

10分で理解する「障害者差別解消法の改正」のポイント

2024/06/24

障害者差別解消法改正のポイント

障害者差別解消法(正式名称:障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律)は、平成25年(2013年)6月に制定された法律で、内閣府のホームページによると「全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に向け、障害を理由とする差別の解消を推進すること」が目的とされており、端的に表すと「障がいを理由とした差別的な行為を禁止し、合理的配慮の提供を求める」といった内容の法律になります。

この法律の対象となるのは、行政機関や企業・店舗などの民間事業者ではあり、個人に対して罰則が設けられているものではありません。しかし、多様性が重視される今日においては、国民一人ひとりの意識としても障がいが正しく理解され、差別や不当な扱いを受けることない社会を作っていくことが求められています。

この障害者差別解消法が2021年に改正され、改正法が2024年4月より施行されましたが、「実際のところ、何がどう変わったのか?」「合理的配慮とは何をすれば良いのか?」と、考えている事業者も少なくないでしょう。

そこで本記事では、障害者差別解消法の改正のポイントや、改正法に従って実施すべきことや禁止されることについて、事例を踏まえながら詳しく解説してまいります。10分で障害者差別解消法を理解できるので、事業者の方はぜひ参考にしてください。

障害者差別解消法の改正ポイントは合理的配慮の提供の「義務化」

近年では、SDGsの推進に見られるように障がい者の権利擁護に対する世界的関心も高まっており、日本においても企業単位でコンプライアンス遵守の意識の高まりとともに、障がい者に対しての向き合い方が重要視されてきました。このような背景において、障害者差別解消法は2021年に法改正され、2024年4月より改正法が施行される運びとなりました。

先に述べたように、障害者差別解消法の軸となる内容は大きく下記の2点です。

① 障がいを持つ人に対しての差別や不当な扱いの禁止
② 合理的配慮の提供

そして、2021年の法改正により見直されたのは、これまで事業者に対しては努力義務とされてきた“合理的配慮の提供”が「法的義務」に変わった点です。

◆合理的配慮の提供が「努力義務」から「法的義務」へ

障害者差別解消法改正のポイント

つまり「提供するように努める」から「提供しなければならない」に変わったことが、今回の改正法のポイントになります。これにより、企業は障がい者への正しい理解に基づいて、自社の生産活動や提供サービス、あるいは雇用や就労環境の見直しと改善を図っていく必要があるのです。

次項より改正障害者差別解消法について、より具体的に解説してまいります。

 

合理的配慮の提供義務化における5つの要点

改正障害者差別解消法について理解するために、まずは「合理的配慮の提供とは何か?」を正しく知る必要があります。ここでは、合理的配慮の理解のため、5つの要点に絞って詳しく解説します。

要点① 合理的配慮の定義

障害者権利条約によると、合理的配慮は、「障害者が他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を享有し、又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって、特定の場合において必要とされるものであり、かつ、均衡を失した又は過度の負担を課さないもの」と定義されています。

もう少しわかりやすく言うと、障害のある人が施設やサービスを利用する際に、個々の状況に応じて、障壁となるものを合理的な範囲で除去したり、変更を加えたりすることであり、障壁を取り除くための変更や調整を過度な負担でない範囲で行うことが、事業者等に求められています。つまり、「障害者一人ひとりのニーズに配慮し、可能な範囲で環境の変更をすることで、障害者が社会参加しやすくすること」が合理的配慮の定義となります。

参考:日本の安全保障と国際社会の平和と安定:障害者の権利に関する条約(外務省)

要点② 過度な負担の考慮

ポイント①に述べた「過度な負担」は、具体的には下記6つの要素の程度によって考慮されるものです。

1. 事務・事業への影響の程度
2. 実現困難度(物理的・技術的制約、人的制約など)
3. 費用・負担の程度
4. 企業の規模
5. 企業の財務状況
6. 公的支援の有無

事業者は、これらの要素から過度な負担に当たるかどうかを総合的に判断し、負担にならない範囲内で改善を実施すれば良いのですが、もし負担となる場合は、障がい者に対してその旨と理由を説明する必要があります。

参考:合理的配慮指針(概要)(厚生労働省)

要点③ 義務化の範囲

合理的配慮の提供は、もともと国や地方公共団体においては法的義務が課されており、一方で民間企業においては努力義務とされていましたが、今回の法改正により民間企業においても法的義務が課されることとなりました。ここでいう民間企業とは、営利や非営利、法人や個人を問わず学校、企業、店舗、病院など、あらゆる業種・業態の事業者が義務化の対象となります。

要点④ 実施方法

合理的配慮を提供する際の具体的な実施方法として、概ね以下のようなステップを踏むことが必要になります。

ステップ1. 障害者のニーズの把握
障がい者本人やその家族、あるいは支援者から合理的配慮の申し出があった際に、その内容についてヒアリングを行い、具体的なニーズや困難を把握し、どのような配慮が必要かを判断します。

ステップ2. 合理的配慮の具体策の検討
実際の配慮方法を検討し、障がい者本人に提示します。例えば、物理的なバリアの除去、情報提供方法、コミュニケーション手段の工夫などの具体策を検討します。また、必要に応じて、障がい者支援の専門家やコンサルタントから助言を受けることも有効でしょう。

ステップ3. 具体策の実施
検討した具体策を実行に移します。施設のバリアフリー化や、適切な案内標識の設置などを行います。あるいはウェブコンテンツにおいても必要な機能を実装していきます。例えば、点字や音声ガイド、手話通訳の提供、読み上げソフトの導入などの機能になります。

労働環境においては、勤務時間の柔軟化、作業内容や手順の調整、障がいに配慮した職場設備の設置などを行います。

ステップ4. 実施後の評価と改善
実施した合理的配慮が適切かどうかを、障がい者本人から定期的にフィードバックをしてもらいます。そして、提供した配慮の効果を評価し、必要に応じて改善策を講じます。障がい者のニーズや環境の変化に応じて、合理的配慮の内容を継続的に見直し、都度改善していくことが重要です。

ステップ5. 自社スタッフへの教育
ここまでのステップについて、全従業員に対して合理的配慮の重要性や具体的な提供方法についての教育を行います。これには、障がいに関する基礎知識、配慮の必要性、実際の対応方法などが含まれます。

ステップ6. 相談窓口の設置
合理的配慮の提供は、一方的なものであってはいけません。そのため、障がい者やその家族、あるいは従業員が合理的配慮について相談できる窓口の設置し、常にコミュニケーションが取れる環境を作っておくことが必要です。

このように、個別の相談対応から具体的な配慮実施とフィードバックまで一連の過程を経る必要があり、事業者には相応の準備と体制整備が求められます。

参考:障害を理由とする差別の解消の推進相談対応ケーススタディ集(内閣府)

要点⑤ 支援体制

合理的配慮の提供にあたっては、地域の障がい者支援団体や行政機関との連携を強化し、支援体制を整備しておくことも重要になります。また、金銭的な支援体制として、障がい者の雇用に関しては障害者雇用助成金、あるいは自治体によって合理的配慮の提供支援に関する助成金があります。具体的に施策を実施するにあたって必要な費用の一部を補助してくれるため、事業者は積極的に活用していくべきでしょう。

参考:2.4.4 合理的配慮等の促進に向けた独自事業について|平成30年度障害を理由とする差別の解消の推進に関する国外及び国内地域における取組状況の実態調査(内閣府)

 

禁止される「不当な差別的取扱い」の具体例

障害者差別解消法によって企業に求められるのは、合理的配慮の提供ととともに、障害のある人への障害を理由とする「不当な差別的取扱い」の禁止となります。「不当な差別的取扱い」とは、内閣府によると次のように説明されています。

障害者に対して、正当な理由なく、障害を理由として、財・サービスや各種機会の提供を拒否する又は提供に当たって場所・時間帯などを制限する、障害者でない者に対しては付さない条件を付けることなどにより、障害者の権利利益を侵害すること

引用:障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針(内閣府)

つまり、例えば「障害がある」 という理由だけで、国や自治体や企業はサービスの提供を拒否、あるいは制限をすることはできませんし、また、障がい者に対してのみ条件を付けるといったことはできません。禁止される不当な差別的取扱いの具体例は、例えば下記のようなケースです。

◆店舗における不当な差別的取扱い

・視覚がい者が盲導犬を連れてレストランに入ろうとした際に、ペット禁止を理由に入店を拒否される。
・聴覚障がい者の「店員に筆談で注文したい」という申し出に対して、対応を拒否する。
・「来店するときは保護者や介助者と一緒に来てください」などと言って、介助者などの同伴をサービス提供の一律の条件とする。

◆レジャー施設における不当な差別的取扱い

・テーマパークで、車椅子利用者が、障がいの種類や程度などを考慮しない漠然とした安全上の問題を理由に、乗り物やアトラクションの利用を拒否される。
・聴覚障がい者が、音声案内やアナウンスを利用できないために案内ツアーから排除される。
・業務の遂行に支障がないにもかかわらず、障がいのない人とは異なる場所での対応を行う。

◆学校における不当な差別的取扱い

・障がいがあることを理由に、受験や入学を拒否する。
・障がいがあることを理由に、特別支援が必要な学生を一般クラスから排除する。

◆公共交通機関における不当な差別的取扱い

・車椅子利用者がバスに乗ろうとしたが、「手間がかかる」という理由で運転手に乗車を拒否される。
・障がい者がタクシーを利用する際に、特別なサービスや対応を理由に通常料金以上の料金を要求される。
・視覚障がい者が駅の音声案内や点字ブロックの不足により、正確な情報や安全な移動が妨げられる。

このような例は、障がい者が他の人と平等に社会参加することを妨げる行為となります。ただし、一概にこれらの行為が違法行為と断じられるわけではありません。重要な点は、正当な理由があれば「不当な差別的取扱い」とはならないということです。

とはいえ、この「正当な理由」というものも、単に企業側が正当であると主張して認められるものでもなく、障がい者、民間事業者、ほか第三者による観点から、具体的場面や状況に応じて総合的・客観的に判断した上で「正当である」と認められる必要があります。

では次に、合理的配慮の提供について具体的な例を紹介してまいります。

 

合理的配慮の提供事例

ここでは、合理的配慮の提供がどのようなものか、具体的な例を挙げて紹介します。

事例 合理的配慮 障がいの種類
大勢の人がいる場所では周囲が気になり落ち着かないため、役所や病院の待合室などでの順番待ちが難しい。 別室の確保は困難であるが、比較的周囲の視界から遮られるスペースに椅子を移動したり、簡単な衝立を利用して視界を遮るなどして、落ち着いて順番待ちができるようにした。 精神障がい
聴覚障がい者が飲食店で食券を購入したが、番号で呼ばれるため出来上がりがわからない。 番号呼び出しとともに店内ディスプレイで番号を表示するようにした。あるいは、出来上がったらスタッフが直接料理を配膳するように配慮した。 聴覚障がい
法律相談の申し込みが本人からの電話のみとなっているが、聴覚と言語に障がいがあるため申し込みができない。 本人からのメールによる申し込みを可能とし、相談時には手話、あるいは筆談によって対応を行った。 聴覚障がい
言語障がい
コンビニで欲しい商品があるが、初めて買う商品であり、陳列場所も価格もわからない。 店員が陳列棚まで案内し、該当商品の価格やパッケージの表示情報を読み上げて伝えた。 視覚障がい
保険の申し込みをしたいが、難病に起因する障がいがあるため手が硬直してしまい、申込書への記入が難しい。 申込者の希望を踏まえて、本人の意思確認を適正に行いながらスタッフが代筆を行った。併せて、別のスタッフが同席して代筆内容を確認した。 内部障がい、難病等に起因する障がい
嚥下障害があるため外食時に通常メニューの食事ができないが、できるだけ家族で同じメニューの食事をしたい。 予約の際に希望の食形態をヒアリングして、可能な範囲で再調理を行い、なるべく元のメニューに近い食形態で提供した。 重症心身障害

 

紹介したのは、あくまでごく一部の例であり、提供できる合理的配慮は場所や状況によって様々なケースがあります。そのため、配慮の申し出があった際には、当事者や第三者の意見と、自社の現状でどのような配慮ができるかについてしっかり擦り合わせながら、継続的に取り組んでいく姿勢が大事です。

また、内閣府より合理的配慮の提供事例集が公開されており、障がい別に様々なケースでの対応例が記載されているので、下記も併せてご覧ください。

参考資料:障害者差別解消法【合理的配慮の提供等事例集】(内閣府)

上記は、ケーススタディとして実際にあり得る事例をもとに合理的配慮の提供例を紹介しましたが、実際に企業が取り組んでいる実例についても紹介します。

FAXによるお客様サポート – ソフトバンク株式会社

ソフトバンクでは、聴覚障がいを持つ顧客や電話での問い合わせが困難な顧客向けに、手話対応窓口のほか、専用のFAXによる問合せ窓口を設置しています。また、チャットサポートも実施しており、スマートフォンやパソコンから文字のやり取りで簡単に問い合わせることが可能です。

ソフトバンクモバイル FAXでのお問い合わせ窓口(ソフトバンク株式会社)

手話接客対応店舗 – KDDI株式会社

au Style/auショップおよび一部のトヨタau取扱店では、聴覚障がい者とよりスムーズにコミュニケーションがとれるように、簡易筆談器を設置しています。また、手話接客対応および遠隔手話接客対応が可能な店舗の一覧も掲載されています。

手話接客対応店舗/遠隔手話接客対応店舗(KDDI株式会社)

 

ウェブサイトにおける「合理的配慮の提供」

合理的配慮はウェブサービスを提供する事業者にも求められており、ウェブアクセシビリティを確保し、障がい者や高齢者がウェブサイトからの情報を安心して得られるための施策を実施していかなければいけません。

自社のウェブサイトにおいてウェブアクセシビリティを確保し合理的配慮を提供するには、定められたアクセシビリティ規格に則った形でサイトを構築・改善する必要があります。ウェブアクセシビリティと、その具体的な対応方法については下記の記事で詳しく解説しておりますので、本記事と併せてぜひご覧ください。

参考記事:サイト担当者が必ず実施すべきウェブアクセシビリティ対応とは?

費用と工期を抑えるなら「ユニウェブ」がおすすめ

そして、ウェブアクセシビリティ対応は常に維持・継続されなければならないものであり、そのため自社対応による構築や運用の負担が大きい企業も少なくありません。もし自社のウェブサイトが未対応であったり、今後より運用負担の軽減を考えているのであれば、弊社が提供するウェブアクセシビリティツール「ユニウェブ」の導入をぜひご検討ください。

ユニウェブは、すべてのウェブサイトに様々なウェブアクセシビリティ機能を簡単に搭載できるプラグイン型のツールで、ウェブサイトにタグを1行挿入するだけで、最短即日導入が可能なツールです。規格にしっかり準じたアクセシビリティ対応を、費用と工期を大きく抑えながら実現できるのが大きな魅力です。

◆ユニウェブ導入により実装できるアクセシビリティ機能

上手のように、障がいの特性に応じたアクセシビリティ機能をクリックひとつでウェブサイトに反映することができます。本記事の右下の青い人型のアイコンをクリックすれば、ユニウェブの機能を実際に体験することができますので、ぜひお試しください。

 

違反に対して直ちに罰則はないが行政指導が入る可能性もある

ここまで解説した通り、改正障害者差別解消法において合理的配慮の提供が法的義務となりますが、これに違反した場合の罰則についても理解しておくべきでしょう。まず結論として、罰則規定が設けられているわけではなく、対応していないことに対して直ちに罰則が課されることはありません。

しかし、行政は、障がい者からの申し出があったにも関わらず合理的配慮の提供を怠った事業者に対して、必要な助言、指導、是正の勧告を行うことができます。行政の改善指導・勧告に対しては、事業者による報告が求められており、報告をしない、または虚偽の報告をした場合は20万円以下の過料支払いが発生します。また、勧告に従わない場合は、その旨を公表することもできます。

もし公表された場合は、企業の社会的評価に影響を与える可能性も十分に考えられますので、事業者は負荷にならない範囲でもしっかりと対応していくべきでしょう。

参考:障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律についてのよくあるご質問と回答<国民向け>(内閣府)

 

まとめ

障害者差別解消法の改正により合理的配慮の提供が義務化されました。しかし、例えば店舗では、もともと車椅子ユーザーの利用を想定した広さの設計を法律的に義務付けられてきたわけではありません。つまり、ある意味で環境整備やインフラが十分に整っていない中で合理的配慮を義務付けられるという状況となったため、特に中小企業にとっては、現状厳しい面があることも否めないでしょう。

しかし、日本は世界的に見ても、障がい者やハンディキャップのある人々への理解が進んでいないことも事実であり、このままでは世界のスタンダードからさらに外れていってしまう可能性があります。企業としては、まずはしっかりとヒアリングを行うことからはじめて、障がい者に向き合い障がいに対する理解を深めていくことが重要です。

お問い合わせ