インクルーシブとはすべての人が共生できる社会を目指す理念
2024/07/25
社会全体で多様性が求められる現在、「インクルーシブ」という言葉が注目されてきています。「インクルーシブ」は、「ソーシャル・インクルージョン(社会的包摂)」という言葉から来ているものであり、「包摂」とは「すべてを包み込む」という意味合いを持つ言葉です。
つまり、インクルーシブとは「あらゆる人が孤立したり、排除されたりしないよう援護し、社会の構成員として包み、支え合う」「すべての人が共生する」という社会政策における理念です。現代社会のあらゆる分野でインクルーシブに基づいた取り組みが進んでおり、多くの企業においてもダイバーシティ&インクルージョンが推進され、障がい者や多様な価値観を持った人々が、年齢や性別、人種や国籍に関わらず活躍の場が提供される機会が増えています。
世界共通の共生理念であるインクルーシブですが、日本国内においてはまだ比較的新しい考え方であり、普及の過渡期にあると言えます。そこで本記事では、インクルーシブについて実際の事例を紹介しながら詳しく解説してまいります。
なお、本来インクルーシブという概念には性別や人種、価値観の多様性も含まれますが、ここでは特に障がいに重点を置いて解説します。
インクルーシブは共生社会の実現のために必要とされる考え方
まず、インクルーシブという概念を正しく理解するために、下図をご覧ください。
◆社会におけるインクルーシブの原則
これは、ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)が1994年に発表した「インクルーシブの原則」を図解したもので、端的に言えば、社会における健常者と障がい者の関係性(状態)を表しています。それぞれの状態について詳しく解説します。
① エクスクルージョン:排除
障がい者が社会の活動やサービスから完全に除外されている状態です。障がい者は教育、労働、社会活動などのあらゆる場面で参加を拒まれるか、機会を与えられません。
◆「排除」の例
・企業が障がい者を雇用しない、または採用プロセスで障がい者を考慮しない。
・公共のイベントやサービスが障がい者の利用を考慮していないため、アクセスできない。
この状態においては、障がい者の社会参加を阻むだけでなく、孤立感や疎外感を引き起こす可能性があります。また、社会全体が多様性の恩恵を受ける機会を失っている状態です。
② セグレゲーション:分離
障がい者が健常者とは別の場所や施設でサービスを受けている状態です。この場合、障がい者は特定の施設やプログラムに集められ、健常者との交流が制限されます。
◆「分離」の例
・障がい者専用の職場や作業所で働くように指示され、一般の職場での勤務が難しい。
・障がい者専用の住宅やコミュニティに住むことが一般的とされ、地域社会から隔離される。
この状態においては、障がい者は必要な支援を受けることができますが、一方で健常者との交流や社会参加の機会を奪われることがあります。また、偏見や差別の助長につながる可能性があります。
③ インテグレーション:統合
障がい者が健常者と同じ場に存在するが、特別な支援や配慮が提供されていない状態です。障がい者は健常者と同じ環境にいるものの、必要な支援が不足しているため効果的に参加できない場合があります。
◆「統合」の例
・職場で障がい者が働くが、合理的配慮や支援の提供がなく、労働条件が整っていない。
・公共施設やイベントに参加するが、アクセシビリティが考慮されていないため利用が困難。
この状態は、障がい者が健常者と同じ環境で活動できるという点で前向きな印象はありますが、支援が不足しているため、実際には困難を感じることが多い状態です。結果として、平等な参加が実現しにくくなります。
④ インクルージョン:包摂(インクルーシブ)
障がい者が健常者と同じ環境で、必要な支援や配慮を受けながら、平等に参加できている状態です。インクルージョンは、障がい者と健常者が共に学び、働き、生活することを目指し、すべての人が尊重しあい共生できる社会、つまり「インクルーシブ社会」を構築します。
◆「包摂」の例
・職場で障がい者が合理的配慮を受けながら働き、必要な支援や設備が整っている。
・公共施設やイベントが障がい者にとってアクセスが容易であり、健常者と同じように利用、参加できる。
この状態は、すべての人が平等に参加し、尊重される社会を実現するために重要です。障がい者が積極的に社会に参加することで、多様な視点や能力が活かされ、社会全体の発展にも寄与します。また、共生の文化が育まれ、偏見や差別が減少する効果も期待されます。
「包摂」とは、ひとつの事柄をより大きな範囲の中に「包み入れる」こと、論理学的には、ある概念が、より一般的な概念の中に包括されること、またはその関係を意味します。これを障がい者と健常者の関係性に置き換えると、様々な人間が個性や特徴を認めあい一緒に活動すること、つまり障害の有無によって差別されないこととなります。
現代社会においては、障がい者が「排除」も「分離」もされない、「統合」された状態をさらに進めた「包摂」=インクルーシブな社会の在り方が強く求められています。
「インクルーシブ」と「インクルージョン」の違い
インクルーシブは、「ソーシャル・インクルージョン」という言葉から来ているもので、品詞の違いとして、ほとんどの場合は同じ意味合いで使われますが、実は他にも微妙な違いがあります。
インクルーシブは、先に述べたように「包み入れる」といった意味を持ち、様々な人間が個性や特徴を認めあい一緒に活動すること、それを理想とした社会像を表したものですが、インクルージョンは、一般的にはこれをビジネスや組織に当てはめた考え方です。つまり、様々な能力を持った人間が同じ企業やグループに所属し、その特性を活かして互いに認め合いながら活動している状態、またはそのプロセスを指します。
ビジネスシーンでインクルージョンを重要視することは現代企業においては非常に大切であり、「ダイバーシティ&インクルージョン」という活動が多くの企業で推進されています。
企業にとって重要な「ダイバーシティ&インクルージョン」
「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)」は、近年、企業においての重要なワードとなっています。ダイバーシティとは「多様性」を意味し、性別、人種、民族、宗教、年齢、性的指向、障がい、経済的背景、文化、教育、経験などにおいて様々な特性を持つ人たちが集まっている状態のことです。つまりD&Iは、多様な人材を受け入れて、個々の能力が発揮できる環境を整えることです。
企業においては、D&Iにより多様な人材を活用することで様々なメリットがあると考えられています。
◆ダイバーシティ&インクルージョンのメリット
・従業員の満足度とエンゲージメントの向上
・離職率の低下
・イノベーションの創出
・企業イメージの向上
世界の変化や、働く個人の価値観も多様化している昨今、今後企業が競争力を強化するためには、ダイバーシティ&インクルージョンの推進は必要不可欠な取り組みになります。
しかしながら、現実的なデータを見ると、令和3年時点での国内における障がい者の人数は約1,000万人弱、その中で障害者雇用数は約60万人、実雇用率は2.2%となっており、決して多くはない数字です。大企業だけで見れば、D&Iの導入は年々進んでおりますが、一方で中小企業にとっては、障がい者を受け入れるための設備資金や、専門家など外部に委託するための資金に余裕がないことにより、障がい者雇用が進んでいないのが現状です。
様々な分野におけるインクルーシブの取り組み
それでは、私たちをとりまく社会環境において、実際にインクルーシブがどのように取り組まれているかを見ていきます。
教育
インクルーシブについて話す上で、教育は欠かすことができません。なぜなら、インクルーシブが注目されるきっかけとなったのが教育現場だからです。インクルーシブ教育は、1994年にユネスコが開催した「特別ニーズ教育世界会議:アクセスと質」におけるサマランカ声明によって提示された教育理念です。
日本では、2007年に障害者権利条約に署名したことにより、法整備をはじめとした改革を進めることになりましたが、特に教育に関しては、2012年の中央教育審議会による、共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進により、日本がインクルーシブ教育へ転換していく契機となりました。
これまで、文部科学省を先頭に、国や地方自治体などの行政機関が主体となって、障がいを持った子どもを含め、すべての子どもが共に学ぶインクルーシブ教育ための基礎的な環境の整備を進めてきました。
◆基礎的環境整備とは
・個別の教育支援計画や個別の指導計画の作成
・教科書、教材の確保
・バリアフリー設備を含む施設、設備の整備
・学校間の交流や共同学習
しかし、現状としては先に述べた「分離」や「統合」の状態に留まっており、「分離された特別支援教育」と国連から指摘を受けるなど、課題が多く残されています。
スポーツ
多くの自治体や団体が主催となって、インクルーシブに則ったスポーツイベントが開催されています。インクルーシブスポーツは、障がい者と健常者が一緒に楽しむことができるスポーツで、参加者の能力や背景に関係なく、誰もが平等に参加できるように設計されています。
◆インクルーシブスポーツの例
・車いすバスケットボール
・アダプティブランニング
・アダプティブサイクリング
・アダプティブヨガ
・ボッチャ
・ゴールボール
・フロアホッケー
・サウンドテーブルテニス
インクルーシブスポーツは、障がい者と健常者が共に楽しみ、交流し、理解し合う場を提供することで、社会の包摂性を高める重要な役割を果たしています。
公園
インクルーシブ公園は、障がいの有無や年齢に関わらず、あらゆる人が利用できる公園のことです。「そもそも誰もが利用できるのが公園である」と思われがちですが、障がいがある人が楽しめない遊具しかなかったり、周りの目が気になるなどの理由により、人によっては利用しづらい公園も多くあります。そのようなバリアを取り去り、すべての人が楽しめ、交流できる場としてインクルーシブ公園が作られました。
下記は、東京都豊島区にあるインクルーシブ公園「としまキッズパーク」です。
◆としまキッズパーク
引用:豊島区公式ホームページ
インクルーシブ公園には下記のような特徴があります。
◆インクルーシブ公園の特徴
・トイレは障がい者用のトイレがあり大人用ベッドも備えられている
・遊び場や遊具にユニバーサルデザインが取り入れられている
・段差などがなく、ゴムチップ舗装で移動しやすい園路
そして、従来の公園とはその作られ方にも違いがあります。
◆インクルーシブ公園の作られ方
引用:大人も子どもも、障がいがあっても楽しめる。今増えている「インクルーシブ公園」ってなに?(Yahoo! JAPAN SDGs)
このように、インクルーシブ公園は設計の段階からヒアリングを繰り返し、完成した後もヒアリングにより検証や改善を行い、公園を育てていく運営体制がとられています。
防災
インクルーシブ防災とは、障がい者や高齢者、幼い子どもを含め「誰も取り残さない」を目指した防災の理念です。災害大国である日本では防災の意識は高く、昔から様々な議論が行われてきましたが、実は障がい者や高齢者などの要配慮者に対する議論はそれほど深くなされてきませんでした。この問題が浮き彫りになったのが、2011年に発生した東日本大震災です。
この震災では、東北3県の人口240万1,955人のうち1万8,829人が亡くなっており、死亡率が0.78%であるのに対し、障がい者(障害者手帳所有者)は人口11万5,859人のうち1,658人が亡くなり、死亡率は1.43%でした。つまり、障がい者の死亡率が全体の死亡率の約2倍に上ったことがわかっています。この事実により、障がい者や高齢者を含めたすべての人に対して、それぞれの適切な防災方法を考え、備えておくことの重要性が非常に高まったのです。
インクルーシブ防災の具体的な取り組み例として、大分県別府市「別府モデル」が知られています。別府モデルには下記のような特徴があります。
◆別府モデルの主要な特徴
・自治体、福祉施設、ボランティア、医療機関を含む地域の支援ネットワークの構築
・障がい者や高齢者が必要な情報を適切に受け取れるよう、さまざまな手段(視覚・聴覚支援、簡易言語、ピクトグラムなど)を活用した情報共有
・障がい者や高齢者も積極的に参加する防災訓練の実施
これらを実践することにより、地域全体での防災意識の高まりとともに、障がい者や高齢者の地域住民との交流が深まり、地域ぐるみの支援体制が形成されることになります。
ウェブデザイン
インクルーシブデザインは、障がい者や高齢者、あるいは外国人など、これまでデザインプロセスから除外されてきた多様なユーザーを、デザインプロセスの上流から考慮するデザイン手法です。とりわけ、ウェブデザインにおいては、障がい者や高齢者、そして様々な背景を持つすべてのユーザーがウェブサイトやウェブアプリケーションを利用しやすいように設計するアプローチになります。
インクルーシブウェブデザインでは、アクセシビリティを考慮し、すべてのユーザーが等しく情報にアクセスできなくてはなりません。改正障害者差別解消法が2024年4月に施行され、合理的配慮の提供が義務化されたことにより、すべての企業はウェブアクセシビリティへの対応が求められており、インクルーシブウェブデザインを理解することの重要性は高くなっています。
インクルーシブウェブデザインには下記のような要件が求められます。
◆インクルーシブウェブデザインに求められる要件
・操作の簡便さ
・読みやすいコンテンツ
・レスポンシブデザイン
・多言語対応
このような要件を満たすことで、より多くの人々にとって使いやすく、魅力的なウェブサイトを提供することが可能になります。また、インクルーシブウェブデザインを実践することで
・広範なユーザー層の取り込み
・ブランドイメージの向上
・ユーザー体験の向上
・SEO効果
といった実質的なメリットもあります。企業のウェブアクセシビリティ対応について、詳しくは下記記事にまとめておりますので、併せてご覧ください。
それでは次に、企業の取り組み事例を見ていきます。
企業における5つの取り組み事例
ここでは、インクルーシブを実践している企業の5つの事例を紹介します。
事例① ANAホールディングス株式会社
ANAグループでは、2015年に「ダイバーシティ&インクルージョン宣言」(現在は「D&I」にEquity(公正)を加えた「DEI」に変更)を行い、経営戦略の柱の1つとしてDEI推進に注力してきており、年齢や性別、国籍、障がいの有無や価値観に関わらず、一人ひとりがいきいきと働けるインクルーシブな職場作りに取り組んでいます。株式会社JobRainbowが主催する「D&Iアワード2023」では、「ベストワークプレイス賞」を3年連続で受賞しています。
また、すべての顧客がより安心・快適にサービスを利用できるように、ハード・ソフトの両面でのユニバーサルなサービスを強化しています。
ハード面では、公式ウェブサイトのアクセシビリティ対応、搭乗手続きカウンターにローカウンターを設置、遠隔手話通訳サービスの導入などがあり、ソフト面では、従業員に対してユニバーサルサービスに関する定期的な実技研修やeラーニングの実施、外部講師を招いて障がい者の方々への理解を目的としたセミナーの開催などがあります。
事例② 大栗紙工株式会社
大阪を拠点に、昭和5年の創業以来、高品質の紙製品の製造を行ってきた大栗紙工株式会社では、発達障がい当事者の意見を汲み取りながら「mahora(まほら)」というノートのブランドを立ち上げました。mahoraの特徴は下記の通りです。
◆mahora(まほら)のノートの特徴
① 発達障がい者にとって、表紙の装飾や中紙に印刷された日付などの余計な情報はノイズとなり集中を欠く要素のため、表紙はシンプルなデザインにし、中紙は日付欄などの罫線以外の情報を全て排除。
② 中紙には、白い紙に比べ光の反射を抑えられる13色の国産色上質紙の中から「レモン」「ラベンダー」「若草(ミント)」の3色を採用。
③ 独自に開発した「太・細交互横罫」「あみかけ横罫」という2種類の罫線により、発達障がい者の「中紙に印刷された罫線が見分けにくく、書いているうちに行が変わってしまったり歪んでしまったりする」といった悩みを解消。
2020年2月の発売開始から4年が経ち、mahoraの累計販売数は13万冊を超え、ユーザーは発達障害者だけでなく、白内障や高次脳機能障害を持つユーザーなどにも拡大しています。
事例③ 味の素株式会社
味の素株式会社は、国際的なインクルーシブビジネスを展開しています。同社は、公益財団法人ケア・インターナショナル ジャパン、および財団法人日本フォスター・プラン協会の2つの国際NGOと協働し、食品・バイオファイン・医薬の3つの事業分野を軸に、西アフリカ・ガーナ共和国の貧困地域のコミュニティにおける栄養改善を目指したソーシャルビジネス共同開発を行ってきました。
この取り組みは1995年より始まっており、2010年には、ガーナ共和国の一般的な離乳食である「KOKO」の栄養不足を改善するアミノ酸入りサプリメント「KOKO Plus」の製造・開発、そして試験的な販売が開始され、2012年から本格生産・販売開始、低身長や貧血の予防に効果があることに加え、貧しい家庭でも購入できる単価でもあることで提供が拡大しています。
結果として、現地の乳幼児の健康状態の向上に加え、現地での雇用の創出にもつながっています。
◆味の素の栄養改善を目指した取り組み
1995年度~2008年度 | 途上国(パキスタン、中国、シリア、バングラデシュ、ガーナにおいて> ◎必須アミノ酸・リジンによる栄養改善・免疫力・健康状態改善の実証試験実施。 |
2009年度~2010年度 | <ガーナにおいて> ◎ガーナ大学、INFと共同プロジェクト立ち上げ。離乳期栄養強化食品の開発、試作品の完成。 ◎NGO2団体と協働で、より詳細な調査開始。(流通販売、消費者テストなど) |
2011年度 | <ガーナにおいて> ◎プロトタイプ製品を用いた効果確認試験。 ◎限定地域でのテスト販売。 ◎本格生産販売体制検討。 |
2012年度~ | <ガーナにおいて> ◎本格生産販売、普及。 <その他地域> ◎ナイジェリアなど西アフリカ他国への横展開検討。 |
引用:味の素(株)、2つの国際NGOとソーシャルビジネス共同開発に着手 〜ガーナにおける栄養改善の実現を目指して〜(味の素株式会社)
事例④ 株式会社ファーストリテイリング
アパレルブランド「ユニクロ」や「ジーユー」を展開するファーストリテイリングでは、2001年に国内ユニクロでの障がい者雇用を本格的に開始し、ダイバーシティ&インクルージョンの取り組みを推進しています。2021年には、障がい者の活躍推進に取り組む国際イニシアチブ「The Valuable 500」に加盟しています。
国内ユニクロとジーユーの店舗では、1店舗1名以上の障がい者の採用を目標にしており、積極的な雇用と職場環境づくりに取り組んでいます。障がいのある従業員に対しても、店長やトレーナーとなるための研修を行いながら、一人ひとりの能力と可能性を広げています。
また、同社では障がいのある顧客や従業員の声を反映した商品やサービス、売り場づくりにも注力しています。例えばユニクロでは、障がいなどのため被りの服の脱着が困難な顧客の声により開発された「前あきインナー」が販売されています。下記の商品ページのレビューでは、家族に障がい者を持つ方の喜びの声も投稿されています。
また、同社では障がい者スポーツの支援や、地域コミュニティ活動の一環として様々な障がい者支援にも積極的に取り組んでいます。
参考:障がい者の活躍推進に取り組む国際イニシアチブ「The Valuable 500」に加盟しました(株式会社ファーストリテイリング)
事例⑤ イケア・ジャパン
世界最大規模の家具販売店であるイケアは、早くからインクルーシブ実現のための雇用施策やマーケティングに取り組んでおり、性別、性的指向、民族、人種、国籍、障がいの有無に関わらずすべての人が公平性とインクルージョンを感じられる職場が提供されています。
イケアでは店舗を展開するすべての国において、男女の雇用比率、男女の管理職比率が同数になることを目標にしており、2021年のイケア・ジャパンにおいての管理職における女性の割合は51.5%、全コワーカー(従業員)における女性の割合は65.5%に達しています。また、2014年に同一労働同一賃金を導入し、2018年からは男女賃金格差を解消する取り組みを行っています。
店舗における施策としては、IKEA原宿、IKEA渋谷を除く各店舗では車椅子の無料貸し出しを行なっております。また、車椅子駐車スペースやベビーカーのスペースを確保、店舗入り口にスロープを設置、店内のエレベーターも大きめに設定されているなど、細かい配慮が提供されています。
商品の販売においては、例えばダイニングで使う椅子について、一人ひとりのニーズに対応した様々なタイプの椅子を紹介するなど、インクルーシブをベースにした商品提案を行っております。このように、イケアでは企業全体にインクルーシブの理念が行き届いている印象が持たれます。
参考:イケアが考える平等性、インクルージョン、多様性、みんなが一緒のインクルーシブなテーブルをダイニングチェアでつくるアイデア(イケア・ジャパン)
世界全体で目指していく理想のインクルーシブ社会
本記事では、インクルーシブについて国内における様々な事例を紹介しましたが、日本においてインクルーシブはまだ新しい概念であり、普及の過渡期にあるのが現状です。先に述べたように、教育面や雇用面でも多くの課題が残されています。
しかし、今や世界全体でインクルーシブな社会の実現が目標として掲げられており、実際にSDGsの中でも「インクルーシブ」という言葉は多く使われており、目標達成のための重要な考え方とされています。今後は国内でも、様々な場面においてインクルーシブ社会を実現するための環境づくりが求められてくるでしょう。
そのため、企業や個人として「誰一人取り残さず、あらゆる人が共生できる社会を作る」ために何が必要か、何ができるのかを考えて実践していかなければなりません。