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経営者や人事担当者が知るべき「ダイバーシティ」を完全解説

2024/09/27

ダイバーシティ完全解説

ダイバーシティは「多様性」を意味し、個人の違い、つまり性別、人種、国籍、年齢、障害の有無、性的指向、宗教、価値観、背景などのあらゆる違いを受け入れ、尊重しようという考え方です。

多様性の尊重といった世界的なトレンドに加え、グローバル化や少子高齢化による労働人口の減少といった現状により、国内でもダイバーシティの推進が重要視されています。とりわけ企業においては、組織の成長やイノベーションの創出につなげるための戦略的な手法と考え、これに取り組む企業が増えており、積極的な人材登用が進んでいます。

本記事では、ダイバーシティについて詳しく解説します。日本におけるダイバーシティの普及度、その重要性や課題、また「ダイバーシティ&インクルージョン」についてもわかりやすく解説してまいります。

今後、自社でダイバーシティを推進していこうと考えている経営者や人事担当者の方は、ぜひご一読ください。

ダイバーシティの国内普及度は高まっている

まずは、日本におけるダイバーシティの現状を、いくつかの数的データで見てみます。下記は、日本財団の「ダイバーシティ&インクルージョンに関する意識調査」詳細資料のデータに基づくグラフです。

◆ダイバーシティ/ダイバーシティ&インクルージョンに対する認知

ダイバーシティ_ダイバーシティ&インクルージョンに対する認知

出典:ダイバーシティ&インクルージョンに関する意識調査(日本財団 / 2021年11月30日)より筆者がグラフ作成

2019年と比較すると、2021年にはダイバーシティ、あるいはダイバーシティ&インクルージョン(DE&I)に対する社会的な認知度が向上しているのがわかります。これは、2020年の東京オリンピック/パラリンピックの開催が契機として考えられています

では、実際に企業ではどの程度取り組みが進んでいるかについてですが、まず女性就業者の現状について見てみます。下記は、2010年から2023年における女性就業者数の推移を示したグラフです。

◆女性就業者数の推移

女性就業者数の推移

出典:女性活躍・男女共同参画の現状と課題(内閣府男女共同参画局)

2012年から2023年の間で女性就業者が約393万人増加しています。これは、2016年4月より施行された「女性活躍推進法(2019年改正)」により女性の労働環境が整備されたことが要因のひとつと考えられます。

続いて、女性管理職比率についても見てみます。

◆民間企業管理職相当の女性割合の推移

民間企業管理職相当の女性割合の推移

出典:女性活躍・男女共同参画の現状と課題(内閣府男女共同参画局)

管理職に就く女性の比率は年々増加傾向にあります。しかし、役職が高くなるほど女性比率が低く、伸び率も悪いことがわかります。

次に、障がい者や外国人の雇用の現状についてですが、下記のグラフをご覧ください。

◆民間企業における障害者雇用状況の推移

民間企業における障害者雇用の状況の推移

出典:令和5年版厚生労働白書 第3章 女性、若者、高齢者等の多様な働き手の参画(厚生労働省)

◆在留資格別外国人労働者数の推移

在留資格別外国人労働者数の推移

出典:「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(厚生労働省)

障害者雇用促進法」の改正を経て雇用率が引き上げられたこともあり、障がい者の雇用は右肩上がりに増加しています。

また、外国人労働者も同様に増加傾向にあり、特にコロナ禍後には大きく伸長し200万人を超えています。厚生労働省によると、外国人労働者数が増加した要因としては、留学生の日本企業への就職支援が強化されたことや、国が進めている高度外国人材(高度な専門的知識や技術を持つ外国人)の受け入れ促進などが挙げられています。

このように、国内の企業や自治体において多様な人材の活用が進んでおり、ダイバーシティの考え方が浸透しつつあることがわかります。

それでは次に、国際的な視点で見てみます。

国際的視点における日本のダイバーシティ

前項では、日本でもダイバーシティの普及が進んでいると述べましたが、他国と比較するとどうでしょう。下記は、管理職を含む女性就業者の割合についての諸外国比較を示したグラフです。

◆就業者及び管理的職業従事者に占める女性の割合(国際比較)

就業者及び管理的職業従事者に占める女性の割合(国際比較)

出典:男女共同参画白書 平成30年版 第2節 企業における女性の参画(男女共同参画局)

女性就業者の割合だけで見れば、国際水準に近づきつつあります。しかし一方で、管理職の割合は極めて低く、女性の社会参加が十分ではないと言えます。

また、障がい者の雇用状況について、下記のグラフをご覧ください。

◆公的社会支出(対GDP比)の推移

公的社会支出(対GDP比)

出典:平成24年版厚生労働白書 第5章 国際比較からみた日本社会の特徴(厚生労働省)

公的社会支出とは、政府や公的機関が、年金、医療、失業対策、育児、福祉その他の社会政策分野に支出する資金のことであり、障がい者の雇用を促進するための経済的な支援や環境整備、福祉サービスの提供などにも活用されています。

古いデータではありますが、グラフを見ると日本は公的社会支出が国際的にも低い水準にあり、障がい者雇用に対する国の対応が十分でないことがわかります。

これらの状況から、日本国内においてダイバーシティの認知・普及が進んでいるとは言え、現状としては、国際的に見てもやや後進的であると言わざるを得ません。

それでは次に、現在日本でダイバーシティが注目されている背景について解説してまいります。

日本で現在、ダイバーシティが注目されている4つの背景

冒頭で述べたように、現在の日本においてダイバーシティへの注目が集まっている理由については、4つの背景が考えられます。

背景① グローバル化の進展

ダイバーシティが注目されている大きな背景のひとつとして、グローバル化により外国人が働く機会が増えていることがあります。そして、企業は異なる国籍や文化的背景を持つ人材を活用することで、グローバルな市場に対応できる体制を整える必要があります。

そのため企業にとっては、ダイバーシティを積極的に導入して多様な視点や価値観を取り入れることが、国際競争力を高めるために必要不可欠となっているのです

背景② 労働人口の減少

日本における深刻な問題である少子高齢化が進む中、これに伴い、労働力人口の減少が大きな課題となっています。下記は、総務省による年齢別の人口推移予測を示したグラフです。

◆高齢化の推移と将来推計

高齢化の推移と将来推計

出典:令和4年版情報通信白書 第1部 特集 情報通信白書刊行から50年~ICTとデジタル経済の変遷~(総務省)

このように予測される生産年齢人口(15〜64歳)の減少により、労働力不足や、国内需要の減少による経済規模の縮小といった問題の深刻化が懸念されています。これに対応するため、女性、高齢者、障がい者、外国人、LGBTQ+など、今まで十分に活用されていなかった人材の力を引き出すことが求められているのです。

各企業がダイバーシティを推進することで、より幅広い人材を活用し、日本全体として持続可能な経済成長を実現することが期待されています。

背景③ 社会的価値の変化

世界でSDGsの目標達成が求められる中、多様性や包摂性が重要な価値観として認識されています。また、消費者や求職者の価値観も多様性を重視する方向に変化しています。下記のグラフをご覧ください。

◆ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)に対する求職者の意識調査

求職者におけるD&Iに対する意識調査

出典:ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)に関する情報収集(株式会社学情)

このように、ダイバーシティに積極的に取り組む企業は求職者にも好意的に受け止められ、社会的な評価を高めることができます

背景④ イノベーションの創出

多様な背景や経験を持つ人々が集まることで、異なる視点やアイデアが生まれ、イノベーションが促進されると言われています。シリコンバレーのIT企業やスタートアップなど、多様性を持つ組織ほどイノベーションを生み出しやすいことが明らかになっているため、日本の企業もダイバーシティの価値に注目するようになっています。

参考:なぜシリコンバレーで多様性が求められるのか(AdverTimes.)

このような背景により、日本の企業においてダイバーシティの重要性が高まっているのです。

企業におけるダイバーシティ推進の重要性

では、企業においてダイバーシティを推進することの重要性について詳しく解説します。ダイバーシティは、以下の4つの点から、企業にとって重要であると考えられています。

① 競争力の向上

先に述べたように、ダイバーシティを推進することで多様な視点やアイデアが組織内で生まれ、問題解決力や創造力が向上します。これにより、革新的な製品やサービスを生み出すことが可能になり、競争力を高めることができます。

② 人材確保とエンゲージメントの向上

企業が多様な人材を受け入れることで、幅広い人材を確保することができます。特に優秀な人材は、自分自身が尊重され活躍できる環境を求める傾向があるため、ダイバーシティの推進は企業の採用力を高め、従業員がその会社で働く意義を見出しやすくなりエンゲージメントの向上にもつながります。

③ 市場の多様化と顧客ニーズへの対応

市場や顧客のニーズが多様化する中で、組織内の多様性があるほど顧客に対してより的確に対応できるようになります。多様な背景を持つ従業員は、異なる顧客層や新たな市場に対する理解を深めることができるため、ビジネスの拡大にも寄与する可能性があります。

④ 企業イメージとブランド価値の向上

現在、企業のCSR活動に注目が集まっています。ダイバーシティを積極的に推進する企業は、社会的に責任ある企業として認知され、ブランド価値が向上します。これにより、顧客や投資家からの信頼を得やすくなり、長期的な企業価値の向上につながります。

CSRについては、別の記事で事例を踏まえて詳しくまとめていますので、本記事とあわせてご一読ください。

関連記事:企業の社会的価値を創出する「CSR」のメリットや取組事例

では、実際にダイバーシティに積極的に取り組んだ企業の成功事例を紹介します。

ダイバーシティを活用した企業の成功事例:株式会社資生堂

株式会社資生堂は、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の推進において日本企業の中でも先駆的な取り組みを行い、その成果を上げている企業として知られています。

資生堂は2000年代から女性の活躍推進に取り組み、「女性が活躍する会社BEST100」(『日経WOMAN』、日経ウーマノミクス プロジェクト)において3年連続で総合ランキング1位を受賞しています。

日本国内の資生堂グループの女性管理職比率は34.7%(2021年1月時点)、取締役会での女性比率は46.2%(2021年3月時点)です。これは国内企業の平均を大きく上回る数字であり、ダイバーシティ推進の結果として顕著な成果です。

また、2019年の通期では売上、営業利益、純利益が過去最高を記録し、特に主力グローバル8ブランドが2桁成長を達成しました。営業利益は前年比で51.4%増の105億円となりました。

これらの記録とダイバーシティの取り組みの関連性について、直接的な因果関係を示すデータは明確には提供されていませんが、同社CEOである魚谷雅彦氏が、「ダイバーシティはこれからの企業経営の重要な柱になる」と述べ、同社がD&Iの取り組みに注力していることを強調しています

ダイバーシティへの積極的な取り組みが資生堂の業績向上に影響を与えたということは、企業の経営方針やブランド価値の向上の側面からも推察できます。

参考:ダイバーシティ&インクルージョン(資生堂 企業情報)2019年実績(資生堂 決算資料)多様性を力に日本発のグローバルブランドへ――資生堂 魚谷雅彦 社長 兼 CEO(サステナブル・ブランド ジャパン)

それでは次に、ダイバーシティ&インクルージョンについて詳しく解説します。

「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)」とは?

ここまでにも「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)」という言葉が何度か出ましたが、ダイバーシティとD&Iは並べて語られることも多く関連性が深いものの、それぞれ異なる意味を持っています。

「ダイバーシティ」と「インクルージョン」の定義と関連性

「ダイバーシティ」は、人種、性別、年齢、国籍、宗教、性的指向、障害の有無、価値観、経験など、組織や社会に存在する「違い」そのものに焦点を当てており、多様な人々が存在することを認め、多様な視点や背景を持つ人々を組織に取り入れることを指します。

一方で、「インクルージョン」は「包摂」を意味し、多様な人々が平等に受け入れられ、その違いが尊重されている状態を指します。

◆ダイバーシティとインクルージョンの定義

ダイバーシティ インクルージョン
多様な人々がいること 多様な人々がその違いを尊重されながら共に活躍していること

D&Iでは、多様性(ダイバーシティ)を持つ人々が組織やコミュニティの中で積極的に参加し、貢献できる環境を作ることに焦点を当てています。

例えば、企業が多様な人材(女性、外国人、LGBTQ+の方、障がい者など)を雇用するのはダイバーシティの取り組みです。しかし、その多様な人材が意見を述べたり、能力を発揮できる環境を整え、全員が平等に評価される状況を作り出すのがインクルージョンの取り組みとなります。

つまり、「ダイバーシティ」は多様性の存在そのものを指し、「ダイバーシティ&インクルージョン」はその多様性を活かし、全員が活躍できる環境を整えることを意味します。インクルージョンの実現のためには、ダイバーシティが前提となるのです。

ダイバーシティの取り組みには「インクルージョン」が不可欠

単に多様な人材を採用するだけではなく、インクルージョン(包摂性)を実践することによって、これらの人材が意見を述べたり、自分の能力を最大限に発揮できる環境を作ることが必要です。

インクルージョンがなければ、異なる背景を持つ人々が孤立したり、意見が無視される可能性があり、結果として組織の多様性を活かすことができなくなります。

したがって、企業がダイバーシティに取り組む際には、多様な人材を活かすだけでなく、その多様性を組織の力に変えるためにインクルージョンが不可欠であり、インクルージョンによって、多様な人材が活躍できる環境が整い、結果として企業や組織が持続的に成長するための基盤が築かれるのです。

なお、インクルージョン(インクルーシブ)については、別の記事で詳しく解説していますので、こちらの記事もあわせてご覧ください。

関連記事:インクルーシブとはすべての人が共生できる社会を目指す理念

ダイバーシティの推進における3つの課題

ダイバーシティは、これからの社会において重要かつ標準的な考え方となってきます。しかし、多様な背景や価値観を持った人材が共存することによるいくつかの課題もあります。

ここでは、主な3つの課題について解説します。特に日本においては、その国民性の観点からも、以下の課題をしっかりと理解した上で取り組むべきです。

課題① 無意識のバイアス

人は無意識に偏見を持つことがあり、これがダイバーシティの実現を妨げる大きな要因となります。例えば、性別や年齢、国籍などによる先入観が、採用や昇進の際に影響を与え、結果的に多様性を阻害することがあります。

先入観を簡単に捨てることは難しい面もあるため、このバイアスは意識的な努力を通じて徐々に克服していく必要があります

課題② インクルージョンの実現が難しい

D&Iの解説で述べたように、多様な人材を採用するだけではダイバーシティは達成されません。その人材が組織内で活躍できるインクルージョンの環境を整えることが必要です。しかし、自社の組織文化や働き方が画一的である場合、多様な人材が自分らしく働ける環境を作ることは時間もコストもかかりやすく簡単ではありません。

そのため、D&Iを推進するには、経営トップがコミットメントを示し組織全体で取り組んでいく姿勢が重要になります。

課題③ 成果が見えにくい

ダイバーシティを推進することで長期的なメリットが得られる一方、短期間での効果を実感しにくい面があります。そのため、経営陣や従業員がダイバーシティの重要性を実感しづらく、取り組みが停滞することがあります。これを防ぐためには、継続的にダイバーシティの取り組みを評価し、成果を共有する仕組みを作ることが重要です。

企業がダイバーシティを推進するための6つの施策

前項の課題を踏まえた上で、企業がダイバーシティを推進する際の取り組み方として、下記のような具体的な施策を行います。

◆ダイバーシティの推進に必要な6つの具体的施策

① 採用プロセスの見直し
② フレックスタイム制やリモートワークなど多様な働き方の推進
③ 研修・教育プログラムの実施
④ キャリア支援やメンター制度の導入
⑤ 社内制度や環境の整備
⑥ ダイバーシティ推進のための評価・報酬制度

これらの取り組みを組織全体で実践することにより、企業は多様な人材が活躍できる環境を整え、ダイバーシティの推進を効果的に行うことができます。

まとめ

現代の日本において、ダイバーシティは少子高齢化や労働力不足の進行、グローバル化による多様なニーズへの対応など、社会や経済の変化に適応するために非常に重要な取り組みとなっています。特に、日本は国際的なダイバーシティ推進の取り組みにおいて遅れをとっているため、積極的なD&Iの推進が必要不可欠です。

企業がダイバーシティを推進することで、組織内に多様な視点やアイデアが生まれ、イノベーションを促進し、競争力を強化することができます。また、女性や外国人、LGBTQ+など多様な人材が活躍できる環境を整えることで、優秀な人材を引き付け、企業の信頼性やブランド価値の向上につながり、持続的な成長を支えます。

今や、ダイバーシティの推進は企業の経営における最重要事項であり、多様性を受け入れることで柔軟性と革新力を持ち、世界に通用する競争力を持つ組織へと成長できるはずです。