企業の社会的価値を創出する「CSR」のメリットや取組事例
2024/08/22
CSR(Corporate Social Responsibility)とは、直訳すると「企業の社会的責任」のことであり、企業がその活動を通じて社会に対して負うべき責任や義務を果たすことを意味します。
端的に言えば企業の「社会貢献」であり、環境活動やボランティア、あるいは寄付などを通して行われることが一般的ですが、その本質的な目的は、単に社会や環境に貢献することだけではなく、企業活動を通じて利益だけではない社会的価値を創出し、長期的な視点で企業の持続可能性を確保することにあります。
CSR活動は、さまざまな分野で取り組まれます。主要な分野として下記が挙げられます。
・地域社会への貢献
・労働環境と人権
・ガバナンスとコンプライアンス
・製品の安全性や品質
SDGsの目標実現が世界共通で求められている昨今、企業にとって利益追求だけでなく、CSRを通して社会全体にポジティブな影響を与えることが重要な企業価値となっています。
本記事では、CSRについて詳しく解説するとともに、そのメリットや取り組み事例についても紹介してまいります。
目次
CSRが求められている2つの背景
現在、国内でもCSRが強く求められてきています。それには大きく2つの背景があります。
背景① 企業の信頼低下
CSRが求められている背景のひとつには、近年増加している企業の不祥事があります。2000年以降は食品の品質管理情報の偽装や、粉飾決算などの不正、労働環境の悪化といった様々な不祥事が明るみとなってメディアに度々取り上げられるようになったことで、企業の信頼性が著しく低下しました。
◆2000年代の国内単独企業の不祥事例(一部)
発覚年 | 企業名 | 内容 |
2000年、2004年、2009年 | 三菱自動車 | リコール隠し |
2002年 | 雪印食品・日本ハム・伊藤ハム等 | 牛肉偽装 |
2006年 | ライブドア | 粉飾決算 |
2007年 | 船場吉兆、ミートホープ・加ト吉等 | 食品偽装 |
2011年 | オリンパス | 粉飾決算 |
2013年 | みずほ銀行 | 反社会勢力取引 |
2015年 | 東洋ゴム | 試験データ偽装 |
2015年 | 東芝 | 長期に及ぶ不適切会計 |
2017年 | 神戸製鋼所 | 検査データ改ざん |
2018年 | SUBARU | データ書き換え |
2018年 | スルガ銀行 | 不正融資 |
2019年 | かんぽ生命保険 | 不適切販売 |
2022年 | 日野自動車 | 燃費並びに排ガス規制値改ざん |
2023年 | 旧ジャニーズ事務所 | 性加害 |
2023年 | ビッグモーター | 器物損壊、保険金不正請求等 |
上記一覧は、あくまでごく一部の事例を抜粋したものであり、他にも大小含め多くの企業不祥事が近年立て続けに発生しました。特に、大企業の不祥事は社会的影響も大きく、消費者や投資家は企業の倫理的行動を一層重視するようになりました。
背景② 環境問題の深刻化
現在、温暖化などの気候変動や環境汚染など、世界的に環境問題が深刻化しており、特に食品ロスやプラスチック廃棄物量の多い日本においては、環境問題は最重要課題のひとつとなっています。このため、企業には単に利益を追求するだけでなく、これらの問題に対して積極的に取り組む責任があるという意識が広がっています。
下記は、2014年の各国のプラスチック廃棄量の比較グラフです。赤い棒グラフが1人あたりの廃棄量ですが、日本の人口1人あたりのプラスチック容器包装の廃棄量は、米国に次いで多いことがわかります。
◆各国のプラスチック容器包装廃棄量
このような背景から、企業が社会や環境に与える影響について厳しい目が向けられているとともに、企業単位での課題解決への期待が高まっており、CSR活動を通じてその責任を果たすことが求められているのです。
では、いざCSR活動に取り組もうとしても、企業によって社会貢献という活動の範囲はそれぞれです。そのため、CSRには世界標準のガイダンスが設けられています。これについて、次項で解説してまいります。
CSRの基本概念となる7つの原則
CSRは、ISO(国際標準化機構)による国際規格「ISO26000」に基づいた活動であり、この規格は、企業が社会的責任を果たすための指針を提供しています。そして、ISO26000において企業が社会的責任を果たすために必要とされているのが、以下の7つの原則です。
◆CSRの7つの原則
① 説明責任 | 企業は、その意思決定や活動が社会や環境に与える影響について責任を持ち、その影響について説明する。 |
② 透明性 | 企業は、その意思決定や活動に関する情報を正確かつ明確に提供し、透明性を保つ。 |
③ 倫理的な行動 | 企業は、高い倫理基準を維持し、公正で正直な行動を取る。 |
④ ステークホルダーの利害の尊重 | 企業は、顧客、従業員、株主、取引先、地域社会など、すべてのステークホルダーの利益や関心に配慮する。 |
⑤ 法の遵守 | 企業は、国内外問わず事業活動を行うすべての地域において、関連する法律や規制を把握し、これを遵守する。 |
⑥ 国際行動規範の尊重 | 企業は、法令に限らず国際的に認められた行動規範や標準を尊重し、それに準じた行動を取る。 |
⑦ 人権の尊重 | 企業は、すべての人の基本的な人権を尊重し、擁護する。 |
これら7つの原則は、CSRを推進する際の基本的な枠組みとなり、企業が取り組む際に考慮すべき主要な要素となります。企業がこの原則に従うことで、持続可能な経営と社会貢献の実現につながると考えられています。企業が活動を行う際には、上記7点に照らし合わせながら取り組みを行なっていきます。
CSRの5つのメリット
企業が実際にCSR活動を行うとなった際、実施には初期投資も必要であり、人的リソースの確保にも少なからず負担が発生します。しかし、CSRによって企業が享受できる下記のようなメリットもあります。
メリット② 顧客のロイヤリティ向上
メリット③ リスク管理と持続可能な経営
メリット④ 従業員の満足度向上と採用強化
メリット⑤ 新たなビジネスチャンスの創出
これら5つのメリットについて、ひとつずつ解説します。
メリット① ブランドイメージと企業価値の向上
CSR活動を積極的に行うことで、消費者や投資家からの信頼が高まり、企業のブランドイメージが向上します。特に近年の日本は、環境問題のほかにも災害や社会問題が深刻化しており国民の関心も非常に高くなっているため、CSRによる社会貢献は大きなアピールとなり、企業価値の向上に寄与します。
メリット② 顧客のロイヤルティ向上
企業が社会的責任を果たすことで、消費者にとっての企業イメージは良好になりロイヤルティの向上につながります。そして、CSR活動が評価されることで顧客の満足度が向上し、リピーターの獲得や口コミによる新規顧客の増加も期待できます。
メリット③ リスクマネジメントと持続可能な経営
CSRは、法的リスクや社会的リスクの軽減にも寄与します。企業が環境問題や労働問題などに取り組むことで、規制違反や社会的な批判を受けるリスクを減らし、長期的な持続可能な経営を実現することができます。
メリット④ 従業員の満足度向上と採用強化
従業員が社会的に意義のある活動に従事することで、自分の仕事に誇りを持ち、企業の一員としての自覚が高まります。これにより、従業員の満足度や定着率の向上につながります。
また、採用面においても、このような企業は特に若い世代の求職者にとって魅力的であり、優秀な人材の獲得によって企業の競争力を高めることができます。企業の社会的貢献が強調されることで、採用活動全体のイメージアップにもつながるでしょう。
メリット⑤ 新たなビジネスチャンスの創出
例えば、CSRの一環として環境に配慮した製品やサービスを開発することで、新たな市場を開拓する機会が生まれるなど、新たなビジネスチャンスを見つけることができます。
また、CSRをきっかけとして他の企業やNPO、あるいは政府との連携が生まれ、コラボレーションによる新たなビジネスモデルが構築されることもあります。
国内企業3社の具体的な取り組み事例
CSRは、国内でも業種を問わずさまざまな企業が取り組んでおり、自社の活動が社会全体に与える影響と、それに伴う責任への理解が多くの企業に浸透してきています。ここでは、誰もが知る大手企業3社のCSR活動を紹介します。
事例① ユニクロ
ファストファッションの代表であるユニクロでは、2006年からユニクロ全商品のリサイクル活動を行っております。使用した商品を回収し、それをリサイクルして新しい商品を生み出すことで資源の無駄使いやゴミの量を削減し、環境への負担を減らしています。
また、回収した衣料品の一部は、UNHCR(国連高等難民弁務官事務所)や世界各地のNPO・NGOと連携して、難民や、災害被災者、妊産婦や母子への衣料支援として世界中に届けられています。2023年8月までの累計で、80の国や地域に5,463万点の衣料支援を行っています。
◆世界各地への衣料支援
出典:株式会社ユニクロ
そのほか、災害時には全国のユニクロ店舗ネットワークを活かして、衣料品や寄付金による支援を行うなど、ユニクロは服を通してさまざまなCSR活動に取り組んでいます。
事例② イオン
世界14カ国、国内外約300の企業で構成されるイオングループは、グループ全体でCSR活動を推進しています。食品ロスの課題解決のため、2025年までに食品廃棄物を半減、また、店舗や自社ブランド「トップバリュ」商品の製造過程で排出した食品廃棄物を堆肥としてリサイクルし、イオンの直営農場で農産物を育て、店舗で販売するというサイクル「食品資源循環モデル」の構築にも取り組んでいます。
◆食品資源循環モデル
出典:イオン株式会社
また、毎月11日を「イオン・デー」として、全従業員が環境保全・社会貢献活動を行っています。具体的には、イオン・デーに実施される「クリーン&グリーン活動」では、公共施設・用地の清掃活動や植栽帯の管理などを行っています。また、イオン・デーに買い物をして発行される黄色いレシートを専用ボックスに投函すると、レシート合計金額の1%にあたる品物が、地域のボランティア団体などに寄付されています。
事例③ ニトリ
家具・インテリア最大手のニトリですが、同社のCSR活動では、特に人材育成や文化支援に力を入れています。北海道・札幌市・北海道大学と連携協定を締結し、小中学生から高校生、大学生・大学院生などの各段階向けにIT人材育成の取り組みを展開しています。
また、2021年には、東京大学先端科学技術研究センターとの共同による教育支援プロジェクト「LEARN with NITORI」を始動。本プロジェクトでは、ニトリグループの施設なども活用し、子どもたちにグループならではの「学び」のプログラムを提供しています。2022年の1年間で、全国11都市で14回開催し、339名の子どもたちと、343名の保護者の方々が参加しました。
◆LEARN with NITORI
出典:株式会社ニトリホールディングス
ニトリそのほか、ニトリグループは文化・芸術・伝統支援として「公益財団法人 似鳥国際奨学財団」や「公益財団法人 似鳥文化財団」といった財団の活動を支援しています。
CSRは、しばしば「CSV」と混同して使われることがあります。CSV(Creating Shared Value)は「共有価値の創造」と訳され、CSR同様に社会的貢献を目指す概念ですが、CSRとはアプローチや目的に違いがあります。
◆目的の違い
CSRは、企業が利益の追求だけでなく、社会や環境に対しても責任を持ち、その活動を通じて社会的価値を提供することを目的としています。一方で、CSVは、企業が社会的価値と同時に、経済的価値、つまり利益を創出することを目的としています。
◆アプローチの違い
CSRは、企業が利益の一部を使って社会的活動(例えば、ボランティアや寄付など)を行う形で実践されます。これらの活動は、直接の利益追求とは切り離されていることが多いです。一方で、CSVは、社会的価値の創造が企業の事業活動の一部となります。
つまり、社会問題の解決にあたって企業が新しい市場を開拓したり、サプライチェーンを改善するといったビジネス的なアプローチで実践され、これにより社会問題を解決しつつ利益を上げていきます。
両者とも社会貢献であることには違いがないため、CSVはCSRに含まれているといった考え方もありますが、CSVは企業戦略の一環といった側面が強く、先に述べたISO26000の7原則が基準ではなく自社の事業が基準になるため、そういった意味ではCSRとCSVは明確に区別されるべきでしょう。
まとめ
世界中で環境問題や社会問題への関心が高まっている現在、利益を追求するだけでは企業価値が高まらない時代が到来しています。企業が社会の一員として存在感を示すためには、事業以外の社会活動にも積極的に取り組んでいくことが重要です。
CSRは、短期的な業績向上につながるものではなく、人件費などのコストもかかるため、最初のうちは利益が削られる面もありますが、真摯に取り組むことで中長期的に大きな利益をもたらす活動です。
まずは自社の事業に照らし合わせて「どのような活動が可能なのか」をしっかりと検討した上で取り組むことで、CSR活動が事業の差別化戦略として優位性・独自性にもつながっていくはずです。