コーポレートコミュニケーションの必要性と9つの手段
2024/08/27
コーポレートコミュニケーションとは、企業が顧客や取引先、株主や投資家、あるいは従業員など、内外のステークホルダーに対して行う戦略的な情報発信、および対話(コミュニケーション)のプロセスを指します。
その最大の目的は、社会が自社に何を求めているかを理解し、それを企業経営に反映させ、企業の持続的な成長を遂げるための基盤を構築することにあります。
コーポレートコミュニケーションの代表的な手段として、下記9つの方法が挙げられます。
② ウェブサイトやブログ
③ SNS
④ 社内コミュニケーションツール
⑤ イベントとウェビナー
⑥ 広報や広告
⑦ CSRレポート
⑧ 顧客サポートとカスタマーリレーションズ
⑨ 社外報や年次報告書
本記事では、コーポレートコミュニケーションについて、その必要性や実践する上での注意点などを詳しく解説します。
目次
コーポレートコミュニケーションの9つの手段
コーポレートコミュニケーションには、企業が内外のステークホルダーに対して情報を効果的に伝達するためのさまざまな手段があります。主要な9つの手段を一覧として以下にまとめました。
手段 | 目的 | 特徴 |
① プレスリリース | 新製品の発表、企業の重要な動向、業績報告などをメディアに伝える。 | 公式な形で情報を公表することで、メディアを通じて広く情報が拡散される。 |
② ウェブサイトやブログ | 企業の情報、サービス、商品を詳しく説明するプラットフォームとして活用。 | 企業の世界観やブランドイメージを構築し、顧客や投資家に深い情報を提供できる。また、ブログはより専門的な知識や業界の動向の発信などにも活用できる。 |
③ SNS | 顧客やステークホルダーとの双方向のコミュニケーションを図る。企業の最新情報、キャンペーン、イベントの共有。 | リアルタイムでの対話が可能。広範なユーザーにリーチでき、動画や写真で世界観も構築しやすいため、企業のパーソナリティを示す場になる。 |
④ 社内コミュニケーションツール | 従業員間の情報共有、企業方針の伝達、チームビルディングを促進する。 | メール、イントラネット、社内報、あるいはSlackやChatworkなどのコミュニケーションツールが用いられる。 |
⑤ イベントとウェビナー | 新製品発表、業界セミナー、カンファレンスを通じて、ステークホルダーとの対話を深める。 | 直接的な対話の機会を提供し、ブランドの信頼性を高める。また、今後の継続した関係を作るきっかけにもなる。 |
⑥ 広報や広告 | 商品やサービス、あるいは企業そのものの認知度を高め消費者の購買意欲を喚起する。企業のポジティブなイメージの構築。 | 信頼性の高い情報源として認識されることが多い。メディア関係者との良好な関係構築が重要。 |
⑦ CSRレポート | 企業の社会的責任(CSR)やサステナビリティへの取り組みをステークホルダーに伝える。 | 透明性のある情報提供を通じて、企業の社会的信用を高める。 |
⑧ 顧客サポートとカスタマーリレーションズ | 顧客との関係を築き、長期的なロイヤルティを促進する。 | チャット、電話、メールなどを通じて顧客とコミュニケーションし、迅速かつ効果的なサポートを提供することで、良好な信頼関係を構築できる。 |
⑨ 社外報や年次報告書 | 投資家や株主など広範なステークホルダーに向けて、企業の年間の業績や活動を報告する。 | 企業の信頼性を強化し、透明性を持たせるための重要な資料。 |
これらの手段を適切に組み合わせることで、企業は従業員や多様なステークホルダーに対して効果的に情報を発信し、強固なブランドと信頼関係を構築し、これを維持することができます。
コーポレートコミュニケーションが必要とされる5つの理由
テレビやラジオ、新聞などのマスメディアが主流だった時代は、消費者に与えらる情報は一方的なものであり、商品やサービスの選択肢も限られたものでした。しかし、インターネット時代が到来し、今や世の中は情報や商品にあふれ、消費者は多くの選択肢を持つようになりました。
何もしなくても商品やサービスが売れる時代は終わり、企業は消費者が持つ極めて多くの選択肢の中から自社を選んでもらうための継続的な努力が必要な時代となっています。このような背景により、経営努力の一環としてコーポレートコミュニケーションが重要視されています。
現代企業にとってコーポレートコミュニケーションが必要とされる具体的な理由には、下記の3つがあります。
理由① 競合他社との差別化
インターネットの発達により情報量が増大した現代において、多くの企業の市場参入が可能になったことで、ビジネス環境は非常に競争が激しくなっています。そのような中で企業が競争力を高めるためには、単なる情報伝達にとどまらず、企業の独自性や価値観を明確に伝えることで、顧客やステークホルダーに他社とは異なる「特別な存在」として認識してもらうことが重要になっています。
そのため、企業には製品やサービスの質だけではなく、企業全体のブランドイメージ向上やコミュニケーション能力が求められているのです。
理由② デジタル化による情報の迅速な拡散
インターネット、特にSNSの普及により、情報は瞬時に拡散され、企業の評判が短期間で大きく変動するのもめずらしいことではなくなりました。そのため、企業はリアルタイムで効果的にコミュニケーションを行う必要があります。迅速かつ的確な情報発信を行うためには、強力なコーポレートコミュニケーションが必要となります。
また、顧客との良好な信頼関係を築くためにも、SNSは効果的なコーポレートコミュニケーションツールとなります。
理由③ ステークホルダーとの関係の複雑化
企業は、顧客、投資家、株主、コミュニティ、あるいは政府機関など、多様なステークホルダーと関係を持っています。それぞれのステークホルダーには異なる期待や要求があり、これに適切に対応するためには、効果的なコミュニケーション戦略が必要です。
コーポレートコミュニケーションは、これらの関係を管理し、それぞれのステークホルダーと接点の多い媒体で効果的な情報発信をしていくことで、良好な信頼関係を構築できるようになります。
理由④ 従業員の多様性とエンゲージメント
多様性が進む現代の職場では、異なる背景や価値観を持つ従業員がともに働くことが一般的となっています。また、企業規模が大きいほど本社や支社、リモートワークなど、働く場所や立場もさまざまです。コーポレートコミュニケーションは、こうした多様な従業員のエンゲージメントを高め、一体感を醸成するために不可欠です。
理由⑤ CSRへの期待の高まり
社会全体が、企業に対して商品やサービスだけでなく、環境問題や社会問題に対する責任を果たすことを期待するようになっています。企業が、そのような諸問題に対しての社会貢献=CSR活動を行う際、その活動を適切に伝えることは、ステークホルダーからの支持を得るために非常に重要です。コーポレートコミュニケーションは、CSRの効果的な発信と社会的信頼の獲得に役立ちます。
なお、CSRについて詳しくは別の記事で詳しく解説しています。コーポレートコミュニケーションとも関係性が深い内容ですので、ぜひ本記事と併せてご覧ください。
これら5つの理由から、現代企業にとってコーポレートコミュニケーションの必要性が非常に高まっています。では、コーポレートコミュニケーションを実施するにあたって、どのような方法があるのでしょうか。次項に解説してまいります。
コーポレートコミュニケーションの4つの実践事例
ここでは、企業が実践したコーポレートコミュニケーションの4つの事例を紹介します。
事例① パナソニック:BtoBコミュニケーションの強化
パナソニックグループは、BtoB分野でのコーポレートコミュニケーションを強化し、ビジネスパートナーとの関係を深めています。特に、展示会やカンファレンス、ウェブサイトを通じて、企業の技術力やソリューションを効果的に発信し、企業間の信頼関係を築くことで競争力を維持しながら、ビジネスチャンスを拡大しています。
また、グループの社員向けに発行していた社内報をインターネット上で公開し、顧客や取引先なども自由に閲覧できる形でリニューアルを行いました。これにより、自社の活動をもっと知りたいと思ってくれる方々に対して、深い理解と、より積極的なコミュニケーションを展開しています。
参考:パナソニックグループの「社内報」をインターネット上で社外に公開~ グループコミュニケーションマガジン『幸せの、チカラに。』を発刊(パナソニック ホールディングス株式会社)
事例② 日産自動車: ゴーンショック後の信頼性の再構築
日産自動車は、カルロス・ゴーン元会長の逮捕後、企業の信頼性を再構築するために、透明性を重視した社内外のコミュニケーションを行いました。経営陣は、ステークホルダーに向けた定期的な説明会を行い、また社内向けにもオープンコミュニケーションを強化し、社内外の信頼回復に尽力しました。
このように、厳しい状況下でこそ迅速かつ透明性のある情報発信を行うことで、社内外の信頼の早期回復つながります。特に、社員に対する継続的なコミュニケーションは組織の結束を強化し、再建に向けた取り組みを支えることができるのです。
事例③ Apple:製品発表イベントによるブランディング
定期的に開催されるAppleの製品発表会は、イベントを通じたコーポレートコミュニケーションの代表的な成功例です。同社のイベントは単なる新製品の発表にとどまらず、Appleのブランド価値を強調する重要な場となっています。
Appleのイベントは、シンプルで洗練されたプレゼンテーションと視覚的に強いメッセージにより、常に一貫性のある世界観が保たれています。この戦略により、消費者に強力なブランドイメージを浸透させ、ファンベースの拡大に成功しました。
◆Appleの製品発表イベント
出典:日本経済新聞
事例④ LEGO:顧客との共同による製品開発
LEGOでは、ファンが「自分の欲しいレゴ」をコンセプトに独創的なアイデアで作品を制作し、投票によって製品化を決める「LEGO IDEAS(レゴアイデア)」というサービスを展開しています。
同社は、2014年に開始されたこのサービスを通じて顧客との深いエンゲージメントを生み出し、ブランドロイヤリティの向上に成功しています。顧客が直接ブランドに関与できる仕組みを提供することは、顧客の忠誠心を高め、競合他社との差別化につながります。
このように、効果的なコーポレートコミュニケーションは、ブランドの強化、顧客との深い関係構築、社会貢献、あるいは危機時のリスクヘッジなど、多くの面で企業の競争力を高めることができる戦略となります。
しかし、実践するにあたって必ず考慮すべき注意点もあります。これについて次項に解説します。
コーポレートコミュニケーションの3つの注意点
コーポレートコミュニケーションは、場合によっては意図しない誤解や信頼の喪失、さらには企業の評判に悪影響を及ぼす可能性もあります。そのため、下記のような注意点を考慮しながら実践することが重要です。
ここでは、コーポレートコミュニケーションにおいて、特に重要な3つの注意点について解説します。
注意点① 一貫性を維持する
コーポレートコミュニケーションにおいて、一貫性は非常に重要です。なぜなら、社内外に発信するメッセージが矛盾していると混乱を招いてしまい、その結果、信頼性が損なわれることにもなりかねないからです。特に、複数のチャネルを使って情報を発信する場合は、メッセージの整合性をしっかり保つことを意識しましょう。
事前にメッセージを統一するためのガイドライン等を作成すれば、企業としての行動や情報発信にブレが生じにくくなります。
注意点② 迅速性と透明性を確保する
必要以上に情報を隠したり、不正確な情報を提供することは、企業の信頼を大きく損なう可能性があります。特に、危機時や問題が発生した際には、迅速かつ透明性のある対応が企業に求められます。そのため、可能な限り迅速に、正確で透明性のある情報を提供することを心がけることが大事です。
特に、有事の際や悪いニュースでも、初動を迅速に情報を隠さずに伝えることで、長期的な信頼関係を築くことができます。
注意点③ コミュニケーションの対象を理解する
コミュニケーションの対象となる顧客やステークホルダーのニーズや関心事を無視してしまうと、メッセージが十分な効果を発揮しません。例えば、社員向けのコミュニケーションと投資家向けのコミュニケーションでは、それぞれ異なるアプローチが必要です。そのため、ターゲットを明確に定義し、それぞれに最適なメッセージとチャネルを選択することが重要です。
また、グローバルな企業の場合、異なる文化や言語を持つ人々に対して同じメッセージを発信すると、誤解や反感を招く場合があります。文化的な違いを無視したコミュニケーションは逆効果となるため、文化的な背景を熟慮し、それに応じたコミュニケーションスタイルや内容を選択する必要があります。
まとめ
情報伝達の高速化や企業競争の激化、あるいは働き方の多様化などによって複雑化した現代社会にある企業にとって、コーポレートコミュニケーションは極めて重要な経営戦略のひとつであり、今後もその重要性は高まっていくはずです。
コーポレートコミュニケーションの手段やコミュニケーション対象は多岐にわたり、実行や管理は簡単ではありません。しかし、本記事で述べた注意点を考慮しながら積極的に実践していくことで、強力なブランド価値と競争力を獲得することができます。
コミュニケーションとは一方向ではなく、双方向で行われるものです。「何をしていいかわからない」という場合は、まずは顧客や取引先、あるいは社員などの声を聞くことから始めてみましょう。